激変する世界! 魔王ガルドバが世界を絶望に落とす! ピーチタイフーンよ希望となれ!
イギュリ敗れる!
最後の四天王もピーチタイフーンを倒すには至らなかった。それは魔国だけではなく世界各国の者たちが喜びに満ち溢れた。事、イギュリはその暴力性が知られており、ドラゴンをも倒し『レスラー』なる存在には多くの注目が向けられる。
「レスラーとは、あらゆる攻撃をも受け止めるというぞ」
「そいつは伝説の鎧か盾ってことか?」
「いやいや、防具は何も着ていないらしい。軽戦士も驚きの身軽さが売りだとか」
「はぁ? じゃあ防御魔法の達人ってか。聞けばエルフらしいからなあ」
よもや鍛え抜かれた肉体で技を受け止めているなど、想像もできまい。それがこの世界の常識なのだから仕方ないのだが。
「足の一撃でゴーレムを倒したっていうぜ。足に神が刻んだ文様があって、戦いになると浮かび上がるんだって」
「吸血鬼の術である無限の死の地獄を乗り越える精神を持っているとか。きっと地獄から来た悪魔か何かなんじゃないか?」
「四天王のうち三名を殺害ではなく従わせているとか。なんでも『戦った後は
中にはこういう的外れな憶測もある。テレビやインターネットなんてなく、実際にピーチタイフーンが戦った様を見た者は【
ともあれ、レスラーと言う存在に多くの希望を見出しているのは事実だ。魔王の配下たちも四天王崩壊を聞き、降伏する者や逃亡する者もいる。国の防衛線はすでに機能していない。逃亡も入国も思いのままだ。
それでも大規模な戦争にまで発展していないのは、当然短期間で戦争の準備ができないという経済的物理的な要因こそあれど、魔王ガルドバの存在が大きかった。四天王を力でしたがわせたとされる魔王。
「魔王には幾度も挑みましたが、一度も勝てませんでしたわ」
と言うのはピアニー。魔国四天王はヘタレたイギュリを除いて、魔王を倒す野心を持っている。そのことを魔王は容認している。むしろ魔王に挑もうとする存在をその地位に宛がっている節があった。
その中でも魔王に実際に挑んだのはピアニーのみ。ヴェルニは様子見しており、かつてのデラギアは力に溺れていた。イギュリは一度挑んで屈服している。自らの国を守るという目的があるピアニーだけが魔王との会見と共に戦いを挑んでいたのだ。
「妾と同じ、キャッチアズキャッチキャン。掴んで投げる投げタイプでしたが……むしろあれは妾に合わせたのではないかという疑いがありますわ」
相手と組みあい、そして投げて極める。魔王ガルドバピアニーと同じような戦い方をしたという。しかしピアニーはそれがあえてこちらの流儀に合わせたと推測している。
「とはいえ、妾のは純粋なテクニックによる戦い方。魔王は投げと同時に重力魔法による投げダメージ増加と、召喚した触手による変則的な関節技。方向性は異なっています」
魔王の投げ技自体は相手を抱えて投げ落とすボディスラム。しかし抱える瞬間に相手にかかる重力を軽くして負担を減らし、叩き落す瞬間に相手に百倍近くの重力を負荷する。落下速度こそ変わらないが、地面に叩きつけられた時のダメージは通常のボディスラムの比ではない。
また関節技も魔王の影から召喚した黒き蛇のような触手が体中に絡みつき、関節をねじる形式だ。複数の蛇によるねじりと拘束。数で押すという技術ではなく力押しの面が強い。
「己の魔力を使って、相手に合わせた攻撃を行う。そういう事かと」
「あえて相手に合わせ、それを乗り越える。なるほど、そういうタイプか」
ピアニーの話を聞き、ピーチタイフーンはうむりと頷いた。本来のスタイルを知ることはできなかったが、その一端は知れる。
「どうあれこちらは全力で挑むのみだ」
ピーチタイフーンのやることは変わらない。傷を癒し、戦いに挑む。イギュリの噛みつきによる噛み傷の跡は浅くはない。さすがはドラゴンだと褒めたたえ、治癒魔法による治療を受けていた。
そんな
『この世界に住むすべての者たちよ。この
突如、ピーチタイフーン達の脳に声が届く。聞いたことのない声だ。だがピアニーを始めとする四天王は顔をこわばらせた。その理由は次の瞬間わかる。
『ガルドバ。
それは魔王ガルドバの声。この魔国を統べ、諸国に恐怖を与え、この世界の生きとし生けるものすべての心を乱す存在!
「魔王ガルドバだと!? 何事だ!」
「まさか、噂のピーチタイフーンに慄いて、停戦を結ぼうと……か?」
「あるいは、全国に宣戦布告かもな。はは、受けて立つぜ」
世界の人々はガルドバの声におびえ、そして次の言葉を待った。どんな要求をされるのか。どんな地獄があるのか。絶望を前にしながらも、ピーチタイフーンと言う希望があるならなんとかなる。彼女に協力すれば何とかなるだろう。絶望の中、世界中の人々はそんな希望を抱き――
『死ね』
――そして、息絶えた。
たった一言。死の呪詛を乗せた念話で世界中のほとんどの生命を死に至らしめた。肉体はその場で焼失し、魂は天に上ることなく魔王の掌に集まる。ガルドバはこともなげに魂だった光を握り締め、自らに取り込む。
『この言葉を聞いて、まだ生きている者よ。それは貴様らが
まるでほこりを払うかのように、ほとんどの生命を無に帰した。その中には魔王に仕えていた大臣や兵士、魔国の住民も含まれる。敵味方区別なく、すべてを殺したのだ。
そしてその中には【
『貴様らにこの世界の創造権をやろう。新たな神としてこの世界に君臨し、好きに生きるがいい』
生き残った者は、自分がこの世界で新たな生命や自然現象を創造できることができるようになったことを知る。まさに神のごとき力。命を作って世界を再生することもできる。失った命の代替もすぐに作れるだろう。
『より良い世界を作るのも自由。地獄を作るのも自由。死のない世界を作るのも、死に満ちた世界を作るのも自由だ。何もせずに自堕落に生きるのも止めやしない』
事も無げに言い放つ魔王。すべての命を一瞬で奪うこともそうだが、神に匹敵する力を他人に与える。それにどれほどの魔力と技術が必要なのか。魔を知る者ならその壁の高さを知り、上を見上げるのをやめるだろう。魔を知らずとも、その所業とそれを行えるだけの冷酷さに俯いてしまう。
今、この世界で生きているのは7名。
鎖使いのオーク、スマシャ。
ゴーレムマスター、ヴェルニ。
人生を奪う吸血鬼、デラギア。
サソリの女王、ピアニー。
引きこもりドラゴン、イギュリ。
ピーチタイフーン。
そして――魔王ガルドバ。
その事実を確認し、ピーチタイフーンは立ちあがる。
ピアニー達は何も言わずにその背後についていく。どうしたのか、どこに行くのか、そう言ったことは何一つ聞かない。聞くまでもないことだ。
ピーチタイフーンが求めるのは常に強者との戦い。
彼女は向かう先は、魔王ガルドバの居場所しかない。そして魔王に挑むのだ。
「自由にしろと言ったな、ガルドバ。では好き勝手させてもらうぞ」
世界をかけた最後の戦いが、始まる!
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