決着! 極めろ最後の力を振り絞って! そして新たなる敵が現れる!
「次は私の番だ、デラギア!」
最後の力を振りじぼって立ち上がるピーチタイフーン。次倒れれば起き上がることはできないだろう。自分でもそれはわかっている。それほど、デラギアの一撃は重く深い一撃だった。
「それを大人しく食らう某だと思うか」
起き上がるピーチタイフーンに向けて、静かにデラギアが問う。全力で逃げるような真似はしないが、無造作に相手の攻撃を食らうつもりはない。ピーチタイフーンを警戒し、敬意を表しているからこそデラギアはその攻撃を回避するつもりでいた。
「大人しく食らうとは思ってはいない。だが、当てる!」
相手の攻撃を避けずに受けるのは、レスラーの矜持。それをレスラーではない者に強要するつもりはない。相手が避けることも戦いなら当然だ。だが、それを加味したうえで当てると宣言する。
「無駄だ。いかに貴殿の一撃が重かろうと、しょせんは物理攻撃。霧を捕らえることは叶うまい。影を蹴ることは叶うまい。水を打つことは叶うまい。物理的にダメージを受けぬようにすれば、貴殿の技は受けることなく流せる」
デラギアは両手を広げてそう告げる。格闘技は人間大の対象を相手にしたものがほとんどだ。獣相手では勝手が違い、ましては流動体や形なき者相手ではどうしようもない。
「御忠告痛み入る。しかし心配は不要だ」
だが、それは一般論だ。基礎を守り、基礎を破り、基礎を離れる。そうして歩みだした者は一般論を超える。木の葉を斬るサムライ。城壁のごとき硬き盾騎士。王座に毒刃を突き立てる暗殺者。常識を超える存在は、どこにでもいる。
「おおおおおおおおおお!」
気合を入れてピーチタイフーンが走り、跳躍する。デラギアはその突撃を待つように構え、意識を埋没させる。この一撃を避ければ、勝ち。ならば全力をもって避けるのが相手に対する礼儀だ。あえて相手に合わせて受ければ、それこそこの戦いを穢すことになる。
『高い次元から俯瞰するイメージ。世界を盤面に捕らえ、そこにある駒を入れ替える。紙に書いた絵を書き換えるように、この次元に在る存在を操作せよ』
転移。空間を操作し、自分の位置を移動させる血魔。如何にピーチタイフーンが達人とはいえ、そこに『ない』ものまでは攻撃できない。攻撃の瞬間に合わせて転移を行い、攻撃を完全に回避する。
「某の勝ち――!」
距離にして5メートル。転移による三半規管の狂いを強引に抑え込みながら、ピーチタイフーンを見る。デラギアから見て、見当違いの場所に足を向けて跳躍している相手を確認する。相手が地面に落ちたのを見て攻撃を仕掛ければ、勝ち――
「捕らえた!」
「な、なにぃ!?」
デラギアは予想外の衝撃を受けて驚きの声をあげる。先ほどまでいたピーチタイフーンの姿が消え、自分の腹部に足を絡めているのだ。フライングボディシザーズ! デラギアはピーチタイフーンの尻の重さに押されるように、仰向けに地面に倒される。
「そうか。某が使った転移の痕跡を追ってきたのか。なんたる魔道力。いや、レスラーの執念!」
「まだまだ続くぞ!」
倒れたデラギアを仰向けからうつぶせに回転させ、その背中にお尻を乗せる。デラギアの両足をもち、反るように引っ張った。逆エビ固め、否――!
ピーチタイフーンの華麗で巨大な尻が背骨を押さえ、反る両足がじわりじわりと背骨を折るように力を加えていく。足と、そして背骨。その全てに負荷をかける桃色の砂地獄! 不死の肉体にレスラーの毒が回る!
「ギブアップか、デラギア!?」
「この、程度……!」
痛みに耐えながらデラギアは自らの肉体を霧にして拘束から逃れようとする。だが、断続的に襲う痛みと強い何かが血魔の仕様を妨げていた。
「逃れられない……! これも、レスラーの、力!」
「私が背負った希望! そして勝負にかける気迫! それが貴様の
己の血魔の意味を知ったデラギアの能力は強い。それを構成する血魔は英雄レベルの存在をも凌駕するだろう。
だがレスラーの気迫はそれ以上!
「だが、これを外せば貴殿はもはや何もできまい。これだけの気迫、何度も行使できるものではなかろう!」
「その通り。だから、ここで極める――!」
呼吸も荒く、視界も朦朧のピーチタイフーン。確かにこれを外されればもはや勝ち目はない。
「
叫ぶと同時にピーチタイフーンは素早く体制を変える。デラギアの足首の一つを自分の足でロックし、腕でデラギアの顔を絞めるようにして反らせ、相手が上になるように持ち上げる。フェイスロック、足首と膝固め。そしてお尻を起点とした背骨折。計四か所の関節を同時に極める!
もがけばもがくほど深みにはまる砂地獄。じわじわと頭と足首と膝と腰を痛めつける。強化された肉体をもってしても耐えきれず、逃れることもかなわない。
(霧化、縮小化、蝙蝠変化、液体化、物質透過、バネ化、硬化、瞬間移動、痛覚遮断――形状変化形能力や移動系能力をもってしてもこの痛みからは逃れられぬ!)
デラギアがあらゆる血魔を駆使してピーチタイフーンの関節技から逃れようとしても、叶わない。発動し、拘束を逃れられたと思った瞬間には掴まれ、戻される。理由などわからない。原理などわからない。だけど理解はできる。
(これが、レスラー……か!?)
そう、これがレスラー。かけられた技を易々と解除はしない。相手が降伏するか、レフリーが止めるか、ロープブレイクするまで解除はしない。逃しはしない。その気迫が、その意地が、デラギアをとらえて離さない!
(降伏などできぬ……! せめて誇り高く、最後まで抵抗して……!)
デラギアは降伏という選択肢を捨てた。それは吸血鬼の誇りでもあるが、何よりもピーチタイフーンの技を突破したいという意地が大きかった。己の意思を地面にかじりつく思いで貫き通す。必死の体を動かし、血魔を駆使し――
「が、ぁ……!」
しかし、逃れることは叶わない。積み重なる痛みに耐えきれず、デラギアは意識を失った。試合終了を告げるゴングが、どこからともなく高らかと鳴った。
デラギアの意識が失われたことで囚われていた者たちが解放された。彼らは自分の疲労などものともせず、ピーチタイフーンの元に向かう。
「ピーチタイフーン、大丈夫か!?」
「見事な相手だった。この私を此処まで追い詰めるとはな」
抱えられて何とか立ち上がるピーチタイフーン。何とか意識をとどめているが、それももう限界だ。どこかで体を休めなければ――
「お見事ですわ。皆様方。魔国の反乱軍――いいえ、その健闘をたたえて【
高らかに響く女性の声。そして【
「
皆さま、かかりなさい!」
向けられる捕縛用の長柄の武器。抵抗を試みようとする者もいたが、練度と疲弊度の違いで捕えられる。意地とばかりにピーチタイフーンはセルケトによろけるようにタックルするが、
「貧弱ですわ。その程度ではお話になりません」
そのタックルはあっさり捕らえられ、そして関節を極められる。地面に押さえつけられ、腕をねじられた。
「それではおやすみなさい」
その言葉と共に走る痛み。デラギアとの戦いで疲弊していたピーチタイフーンは、その痛みと共に意識を失った……。
★試合結果!
試合場所:デラギア城城下町
試合時間:16分37秒
●デラギア (決め技:ピーチ・デザートヘル) ピーチタイフーン〇
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