これが真なる人生剥奪! 吸血鬼デラギアの一撃とレスラーが今、ぶつかり合う!
「ワタクシは……!」
魔力を展開し、雷撃を放つデラギア。そして着弾の瞬間に数多の感電死したモノの人生をピーチタイフーンに叩き込む!
「電流爆破デスマッチなど、すでに何度も経験している!」
感電死した者たちの痛みと苦しみを受け止め、ピーチタイフーンが跳躍する! 相手を投げ飛ばし、倒れたデラギアをヒップドロップで圧し潰す!
「ワタクシは……!」
ならば次はとかぎ爪を食い込ませ、ピーチタイフーンの血液に毒を送り込む。じわじわと毒で苦しませながら、同時に毒殺された人生を何度も回顧させた。
「毒霧攻撃に見えない凶器攻撃。そんなものは試合では当然の攻撃だ!」
毒であえぎながら立ち上がるピーチタイフーン。まっすぐ立ち上がり、勢いをつけたヒップアタックでデラギアにダメージを重ねていく!
「何故です……何故倒れないのですか! なんというタフネスですか、貴方は……!」
何度も傷つきながら立ち上がるピーチタイフーンに焦りを感じるデラギア。吸血鬼の持つ再生能力と奪った生命力増加や魔素吸収により何とかしのいではいるが、ピーチタイフーンの度重なる攻撃を前にデラギアも疲労困憊だ。
「まだわからないか! お前の攻撃は『軽い』! 持ちえた力の意味も知らず、ただ得たものを振り回しているに過ぎない!
一つ一つの技は素晴らしくとも、そこに至る過程がない! 意味もなく武器を振り回す子供と同じだ!」
「子供……! ワタクシを子供と言いましたか!」
「子供出ないというのなら証明してみよ! この私を倒してな!」
来るなら来い、と胸を叩くピーチタイフーン。彼女はこれまでデラギアの攻撃を避けなかった。それは彼女――レスラーの信念と言える行為のようだが、どちらにせよそれを可能とするには数多の鍛錬があったに違いない。
(彼女は、前世の経験を全て受け止めた。痛みも苦しみも何もかも。それは前世の人生をそのまま生きて経験にしたという事。いわばその人生をもう一度生きたということ。
だからこその強さ。肉体も、精神も、前世のレスラー同様と言う事)
レスラーと言う存在に理解は及ばないが、デラギアはピーチタイフーンの強さの一端を理解した。
「ならばワタクシも……!」
相手がそれで力を得たというのなら、自分も同じことができる。持っている『人生』の数はこちらのほうが多いのだから。
「身体能力増幅」
身体能力増幅の血魔を持っていた吸血鬼の『人生』を受け入れる。
『増幅する肉体能力。駆け巡る血流の圧力が肉体を強化すると同時に痛めつける。細胞の一つ一つが悲鳴を上げる。圧力をかけすぎて、出血がおびただしい。死ぬ、苦しい、過度な増幅は命とりだ。だがこれを極めれば強くなる。苦しみながら、肉体を、苦しい、でも、アルミィを守るために――』
異国の姫を守るために強くなろうと努力する吸血鬼。誰もない所で一人努力し、そして守るべき姫の幸せを見て静かに去っていく人生。
「血液武器化」
血液武器化の血魔を持っていた吸血鬼の『人生』を受け入れる。
『イメージしろ。鋭く、鋭く。鍛冶が鉄を打つように、心の中で何度も武器をイメージしろ。その数だけ武器は研ぎ澄まされる。気が狂うほど想像し、創造せよ! お前が作った武器の数だけ、領民は救われるのだ!』
人間の軍勢から魔物の民を守る吸血鬼。生み出した槍が人間を貫き、その勢いを止める。多くの民はそれにより守られ、慕われる人生。
「精神力増幅」
精神力増幅の血魔を持っていた吸血鬼の『人生』を受け入れる。
『世界、空、海、大地、空気、生命……理解しろ、理解しろ。世界は全て一つの流れ。生も死も一つの流れ。それを受け入れ、歩き続けろ。意味などない。そんなものは後に生きる者が決めればいい。今成すべきは――』
世界の理を理解し、無我の極致に至った吸血鬼。以後種族という垣根を超えた活動を行い、その教えが世界の在り方さえ変える思想となる。
「……時間操作」
時間操作の血魔を持っていた吸血鬼――真祖の『人生』を受け入れる。
『時を止めることに意味はない。すべての生物は前に進むのだから。足踏みするこの血魔よりも、他人の人生を受け入れられるデラギアこそが、新たな真祖の長となるにふさわしい。……他人の人生を奪う覇道なれど、その闇を超えた先に真祖を超えた存在への道があるだろう』
デラギアに能力の意味を理解しろと告げた真祖。人生を奪い、そして受け入れること。それを理解できれば真なる祖となる。時間停止という停滞した吸血鬼の時代を終わらせ、多くの人生を理解した新たな祖として君臨してほしい。
「……そうか。これが、『
多くの人生を受け入れたデラギア。時間にすれば一秒にも満たない回顧だったが、デラギアの体感からすれば無限ともいえる時間。長寿吸血鬼の人生を何度も経験したのだ。
「待たせてすまない。ピーチタイフーン。某に『人生』の意味を与えてくれた恩人にして、乗り越える好敵手」
デラギアの周囲には可視できるほど濃い赤きオーラが螺旋状に渦巻き、口調も一人称も変わっていた。自らを高貴に見せたい口調ではなく、対戦相手に敬意を払う礼節を持った貴族の態度。
「理解したか。『人生』の意味を」
「それは某の一撃をもって証明しよう」
デラギアの言葉に、無言でうなずくピーチタイフーン。もとより二人にはそれしかない。
「――時よ!」
デラギアは言葉と共に時間を止める。血液に魔力を通し、世界そのものに干渉してその狭間を広げた。
肉体強化×4! 精神増幅×3! 血液武器化×5! 魔眼×8!
それは理解した吸血鬼達の『人生』。その経験が今のデラギアを形成している。複雑な血魔のコントロールを増幅した精神力で制御し、肉体をしなるバネのように強化する。威力で吹き飛ばないように武器化した血液で杭を作って足場にし、同時に拳にまとわせる。魔眼の力で相手のダメージ具合を確認し、さらに複数の状態異常を与えて動きを惑わす。
「某が受け継いだ『人生』。それが為すはずだった栄光を奪った。その罪、その咎を一身に受けよう」
ピーチタイフーンは強い。ならばできうる限りのことをして挑むのが、礼節。その心を乗せて、デラギアはこぶしを放った。一撃! 数多の『人生』を凝縮したデラギアの、渾身の一撃!
「そしてこの一撃をもって、貴殿に感謝の念を届けよう。滅せよ、我が
――そして時は動き出す。
「うぐ、あああ……!」
動き出した時間。鋭い衝撃を受けたピーチタイフーンは地面に付した。起き上がろうとするが、体に力が入らない。腕を使って起き上がろうとするが、力がこもらず震えるだけだ。
「諦めるがいい。貴殿は前世と己の二人だけ。某の受け継いだ数と比べるべくもない。その『重み』を理解し、ここで果てるがいい」
「確かに重い。見事だデラギア。お前は確かに多くの『人生』を受け継いだのだろう。だが――」
奥歯を噛みしめる。涙を流しながら、声にならない声をあげる。
倒れて地面に這いつくばるなど、レスラーなら日常茶飯事!
動けなくなるまで殴られるなんてレスラーなら日常茶飯事!
そしてそこから起き上がることは、レスラーなら日常茶飯事!
「レスラーを、なめるなぁ!」
10カウント寸前。ふらつきながら、何とか立ち上がるピーチタイフーン。デラギアの覚醒と一撃は敬意を表する攻撃だった。それに応えずして何がレスラーか!
そしてレスラーであるならば、ここで浮かべるのは称賛の言葉ではない。強敵が目の前にいるのだ。ならば全力をもって叩き潰すのみ! その気概を乗せた咆哮をあげろ!
「次は私の番だ、デラギア!」
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