1st Fight! VS鎖使いオーク! ピーチタイフーン、覚醒!

奴隷エルフのルミルナは前世に覚醒する! いざ立ち上がれ、ピーチタイフーン!

 日の射さぬ石造りの牢屋。そこに囚われた女性と、複数の魔物達。魔物達は自分たちに宛がわれた女体を前に、肉体と精神を昂ぶらせていた。


「いやあああああ!」


 エルフのルミルナは迫ってくるオーク達に悲鳴を上げ、後ずさる。複数でこちらを包囲する豚の顔をした亜人。その顔と荒い息遣い、そして腰布に隠された隆起したモノ。自分に何を求めているかなど明白だ。魔物につかまればどうなるか。それは村長から何度も聞かされていた。


 その村も、今はない。魔国<ガルドバ>の襲撃を受けてルミルナの村は燃やされた。ルミルナをはじめとしたエルフたちは魔物達に囚われ、魔力封じの首輪と手錠をかけられた。魔法を使えないエルフに、狂暴なオークを押しのけるだけの力はない。


「これがあるから、この仕事はやめられないんだよな」

「ああ。結構な上玉だ。せいぜい楽しませてもらうぜ」


 卑下な笑みを浮かべるオークたち。その視線が、ルミルナを嘗め回すように見る。


 身長は人間の成人女性よりも少し低い程度。しかし森という環境かそれとも種族の違いか、エルフは人間の体と大きく異なる。


 まずは耳。鋭くとがった特徴的な耳だ。一説では神の末裔だとか、妖精の声を聞くためだとか言われているが、男性達にとっては神秘的な特徴などどうでもいい。エルフの登頂的な部位でもあり、そこを弄ることで優越感を満たせることが重要なのだ。


 続いて胸。戦いでボロボロになったエルフの衣。その上からでもわかるぐらいに豊満な胸の存在を見ることができる。神の血を引くエルフは、その造形も神がかっているのだろうか。人間の掌ではつかみきれないほどの大きな双丘が布に隠されている。


 胸から腰に流れるラインもまた神造。か細さを感じさせると同時に、生命の創造を強く感じさせる臀部への曲線。弱さと同時に子を産む力強さを含んだライン。相反しながらも融合する女性そのもの。


 そして太もも。森を駆け回るエルフならではの太い大腿部。鼠径部から別れる二つのライン。細く優雅な魅力とは異なり、やわらかくすべてを包み込む包容力を感じさせる。力強さと優しさ。その二つがそこにある。


 まさに芸術。まさに神秘。誰にも侵されることのなかったルミルナの肉体。それが今、魔物の欲望に汚される。ルミルナ自身もその未来を否定することができず、ただ悲鳴を上げて逃げるしかできなかった。


 しかし狭い牢屋の中では逃げることもできない。三人のオークに取り押さえられ、石の床に押さえ込まれる。唯一の出口を押さえるオーク。そして沢山のオークがいる。魔法を封じられたルミルナにこの状況を奪回する術は、ない。


「まだ諦めないってか。健気だな」


 それでもルミルナは抵抗をつづけた。腕は手錠でつながれているため使えず、唯一動かせる足を振るってオーク達を押し返そうとする。しかし足首をつかまれ、その抵抗も封じられた。


「そんじゃ、楽しむとしようか。最初は誰からやる?」

「がっつくなよ早漏。まずはこの体を楽しもうぜ」

「へっへっへ。いい形の尻してるぜこのエルフ」


 その言葉を聞いた瞬間に、ルミルナの心に自分ではない何かの声が響き渡る。


『ロープに振った相手に背中を向けた! 今っ、ピーチタイフーンの伝家の宝刀が抜かれる時! いい形のお尻が凶器と化した!』


 ピーチタイフーン。その言葉と共にルミルナの脳内に見たことのない映像が浮かび上がる。毎日のトレーニング、派手なコスチュームを着た女性達、正方形のプロレスリング……。


『ああっと、凶器攻撃! レフェリーは気づいていない! まさに非道! まさに凶悪! しかしピーチタイフーンはそれに屈しない!』


『跳ぶ! 鍛えられた足がマットを蹴り、重力から解放されて宙を舞う! そのまま回転し、その足が延髄を狩る! 罪人を裁く断頭台のごとく!』


『立ったぁ! 頭からたたきつけられたのに立ち上がったぞピーチタイフーン! その姿はまさに不死鳥フェニックス!』


『コーナーポストから宙を舞う! 体を回転してその体をブラックマスクにぶつけるピーチタイフーン!』


『ピーチタイフーン、必殺のっ! ピーチストライク! 自慢のヒップで押し潰し、そのまま相手をフォールするっ! ワン! ツー! スリィィィィィィィィ!』


 そう。ルミルナの前世は日本の女子プロレスラー『ピーチタイフーン』だったのだ。これまで生きてきたルミルナの人生と、前世の人生が融合する。前世の経験と現世の経験が交じり合い、相乗される。ここに今、エルフのレスラーが爆誕したのだ!


 レスラーがフォールされていないのに地面に付して起き上がれないなど言語道断! 腹筋を使って押さえ込みをはねのけ、ルミルナは立ち上がる!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そして雄たけび。悪には屈しない。暴力には屈しない。その意思を込めての咆哮だ!


 そして同時に、どこからともなくカーン、と言う音が鳴った。ゴング。この世界にはありえない音。しかしそれは確かに鳴ったのだ。


 それは試合開始を告げる音。その瞬間、ピーチタイフーンが動き出す。そこにいるのは魔物に虐げられる生贄ではない。暴力に対し敢然と立ち向かう女性。雄々しく気高いリングの狼。


「なんだ!? いきなり起き上がって」

「抵抗するってか。そのほうが楽しめそうだぜ」


 オークたちはルミルナの変化に気づかない。異常なほどの抵抗と雄たけびに怪訝に思うことはあれど、相手はエルフ。自分よりひ弱な種族だ。エルフ最大の武器である弓矢も魔法もなく、ましてや手錠をかけられている。どれだけ抵抗したところで先は見えている。


 その判断は常識的だ。それゆえにルミルナは諦めていた。抵抗したところで無駄なのだと。抵抗したところでいずれ力尽きるのだと。


「はぁ!」


 しかし今の彼女に諦念はない。反抗の意思を込めて、近寄るオークに蹴りを放つ。ローキック。相手のすねを穿つ蹴りだ。腰を落とした鋭い一撃。その一撃に顔をゆがめるオークに、流れるようなハイキックを放つ。


 驚くオークの隙を逃すことなく、ショルダータックルを仕掛けるピーチタイフーン。エルフの体重とオークの体重。その差を比べれば誰もが無意味な行為だと嘲笑っただろう。そのまま受け止められて、組み伏せられる。その未来を誰もが予想した。


「やあああああああ!」


 だが、そのタックルにはピーチタイフーンのプロレス技術が加わっていた。相手の重心を理解し、体幹のずれを見切り、インパクトの瞬間に体をひねって威力を増し、相手のバランスを崩すと同時に足を踏ん張り雄たけびを上げる。


「うごああああああ!」

「なんだとぉ!?」


 仰天! 天を仰ぐことをまさにそう呼ぶ。倒れたオークが見たのは牢屋の冷たい天井だが、その感情を示すならまさにこの言葉だ。まさかエルフごときに倒され、天井を仰ぐことになろうとは!


 しかし驚きは長くは続かない。倒れた相手に躊躇なく跳躍するピーチタイフーン。自らのお尻を倒れこんだオークの腹部に叩きつける! 高さ×体重×エルフのヒップ力! これにはたまらずオークも昇天した!


「何をしている。早く取り押さえろ!」


 ここに至って異常を察知したオーク達。ピーチタイフーンを支配する立場と思っていたが、相手は獅子。ここで倒すべき相手だと認識する。拳を握って腰を落とし、鍛えられた筋肉でピーチタイフーンを倒すために気合を入れた。


「くるがいい! ピーチタイフーンは如何なる挑戦も受ける!」

「何がピーチタイフーンだ! エルフの分際で!」

「オークの力、なめんじゃねぇぞ!」


 ピーチタイフーンの挑発に雄たけびを上げるオーク達。魔法をふうして肉体的に劣るエルフ。しかも相手は一人。そんな状態で負けるわけにはいかない。怒りはそのままパワーに代わる。ただ力で押す。相手は弱ければ、それも戦術となる。


 ピーチタイフーンとオーク達はぶつかり合った。


 

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