第45話
エリーゼのようにいくらかは堕天使化を許してしまうことになったが、ここまで倒せたのだったら被害は最小限に抑えられているはず。
今回事件を起こした大天使を倒し、後々ルーシーさんと一緒に街中から疑いのある方を探し出せば解決となるはずだ。
「ねえエリーゼ、この事件を起こした大天使の居場所って分かる?」
僕はエリーゼに駄目元で聞いてみた。普通なら分からないだろうけれど、大天使になったエリーゼならもしかしたら推測できるかもしれない。
「蠅の出場所を見るに、ノウドル大学の敷地内が一番可能性が高いわ」
何故僕の大学に?
「じゃあとりあえずそこに行ってみよう」
「本当ならそうするべきなんだろうが、それは無理みたいだ」
「そうね」
僕は二人にそう呼びかけるが、断られた。というのも、
「目的の障害になる者は消さないといけませんよねえ」
「はい、その通りでございます」
そこに現れたのはレヴィさんが倒して元に戻したはずの大天使ウリエルと、修道服を身に纏った女性だった。
「まさか……!」
「ああ、そのまさかさ。私はこの蠅たちのお陰で大天使として復活することが出来た。力が漲る感じ、久々だよ」
ウリエルは恍惚そうに語っていた。
「あんたはレイモンドのじいさんとそこのエリーゼって嬢ちゃんと同じ奴か。で、そこの嬢ちゃんは何者だ?」
「私は天使教司教、ライブラ・モニアと申します。以後お見知りおきを」
ライブラと名乗る女性は、恭しく頭を下げた。
「そりゃあそうか。こいつに付き添うような奴だもんな」
「大天使様にこいつ呼ばわりとは、無礼な方ですね」
ライナーさんの軽口に顔を顰めるライブラ。
「まあ構いませんよ。阿呆には私の偉大さを理解できないだけです」
「それもそうですね。大天使様、早く潰してしまいましょう。そこに居る神の意志を理解できない失敗作の大天使も共に」
「はい。さっさと片付けて計画の続きを始めましょう」
そしてライブラとウリエルは戦闘態勢に入った。
「エリーゼとやら、あの男は任せた。女は俺が全力で足止めする。さっさと片付けて手伝ってくれ。そしてペトロ!お前はさっさと大学へ向かえ!」
「はい!」
僕は二人を信じ、走り出した。
「大丈夫だよね……」
ウリエルはともかく、ライブラと名乗る女性。力だけで言えば確実にウリエルやエリーゼより強い。下手をすればライナーさんよりも。
だけど勝てると信じて、僕は自分の役目を全うするしかない。
そして大学に着いた。
建物が一部破壊されており、激しい戦闘が行われていたことが分かる。
「誰かが戦っていたんだ。ならどこかにルーシーさんが居るはず」
あの二人を除けば今この街で戦えるのはルーシーさんとレイモンドさんだけだ。が、レイモンドさんはここを特定できるはずが無い。
静まりかえった校内を歩き回り、僕はひたすらに捜索を続けた。
「え……!」
そして見つけたのはボロボロの状態で倒れたレヴィさんの姿だった。
「大丈夫ですか!!」
僕は慌ててレヴィさんの元へ駆け寄った。
「いやあ、完膚なきまでに負けちゃったよ。そこそこ戦える自信があったんだけどね」
と力なく笑うレヴィさん。
「とりあえず医務室に運びます!」
「いや、大丈夫だよ。動けないのは単に疲れ切っているだけだから」
そう言われてレヴィさんの体をちゃんと見てみると、ボロボロなのは服だけでレヴィさんの体には一切傷がついていなかった。
確かにこれなら放っておいても大丈夫そうだ。
「って大天使はどうなりました?」
レヴィさんが無事だと安心したお陰で本題を思い出した。確かレヴィさんは負けたって……
「ああ、それならあそこに寝ているよ」
レヴィさんが遠くを指差した。そこにはレヴィさんと同様にボロボロになって倒れる男性の姿が。
「え、負けたはずじゃ?」
「そうだね、僕は彼に負けたよ。倒したのはルーシーさ」
ルーシーさんがレヴィさんが負けた相手を倒した?
「どうしてって顔をしているね。どうして彼が僕より強い敵を倒せたのかって。それはね、僕の強さはルーシーさんから借りていたものだったからだよ」
「強さを、借りる?」
「うん。大天使を倒すのを手伝う代わりにね。で、さっき力を全て返したんだ。詳細に関しては彼から聞くと良いよ」
「ルーシーさんは今どこに?」
「天使教の教皇が直接管理している教会だね。僕はここで寝ているから、向かってあげて」
あの街で一番大きい教会か。
「分かりました」
何が起こっているのか分からないが、ルーシーさんに全てを問いただす為、教会へ向かう。
「かなり距離があるから内容を整理しながら向かおう」
レヴィさんはルーシーさんより強かった。しかしそれはルーシーさんに力を与えてもらっていたから。そしてその状態のルーシーさんはレヴィさんが惨敗した大天使を倒せるくらいの力を持っている。
そしてルーシーさんは今回僕たちに何も言わず、単独で行動している。
また、事件が起こった直後にルーシーさんとレヴィさんは大天使の元へ駆けつけられている。
だがルーシーさんは事件を知り調査をした期間はかなり短い。基本的に調査をダンデさんに任せているのにダンデさんより調べが早いなんて話は考えにくい。
つまりルーシーさんは今回の事件を引き起こした大天使の存在を最初から知っているのでは?
「じゃあどうして元に戻そうとしなかったんだ?」
一番考えられるのは力の付与を済ませた後に正体に気付いたから。
でも何となく違う気がする。それなら時間がある時にさくっと倒してしまうだろう。同じ時期に大天使が複数動き出すなんて稀だろうし。
色々考えている間に教会に辿り着いた。
警備をしているはずの信者の方々は全員倒されていた。多分ルーシーさんだろう。教会の中から剣がぶつかりあっている音が聞こえてくる。
「とりあえず中に入ろう」
僕は正面の扉を開き、中に入った。
「何をふざけたことを言ってんだ!」
「理想には犠牲がつきものなんだ。全ては良き世を作るため。元々天使はその為に生まれたんじゃないか!」
中では見知らぬ男性と言い争いながら、空を舞い剣をぶつけ合うルーシーさんが居た。
「ルーシーさん、大天使だったんだ」
確かにそんな気はしていた。ただの人間の筈なのに単独で暴走した堕天使を倒せるわけがなかった。日ごろかなり訓練しているはずのヘルド騎士団の方々ですら集団で倒すのがやっとだったのに。
大天使のような超常的存在が居るんだからそういう人間もいてもおかしくないよねって勝手に整理をつけていた。
天使は堕天使も大天使も認識することが出来ないのだから、天使と出会う前から大天使だったら人間だと偽ることも可能だ。
完全に見落としていた。
「ペトロ!何で来たんだ!危ないから下がってろ!」
でも、ルーシーさんは悪い方ではない。じゃなきゃこうやって戦っていないし、優しい言葉もかけてくるわけがない。
「おっと、客ですか。天使教の方だと思っていましたが」
ルーシーさんが僕に声を掛けたことで、僕の存在に気付いたようだ。
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