第38話
「そんなに金を持っているんだ」
別に議員をやっていたからといって馬鹿みたいにお金が入ってくるわけではない。
確かにそこら辺の仕事よりは稼げるようになっているけれど、それでも一般人の2倍、3倍程度でしかない。
「サザーランド家は元々金鉱を保有していたからね。もう掘り尽くしたらしいけど、莫大な財産を持っている」
「そこから引っ張ってきたんだね」
自由に使っても良い金がたくさんあるのであれば、博打をしようという結論に至ってもおかしな点は無い。
「ええ。まあそのお陰でかなり財政状況は悲しいことになっているみたいだけど」
となるとおかしいのはレイモンド議員のみ。となると大天使の可能性が高いってことね。
「流石に大天使って感じだね」
「ええ。ただ、そうではない可能性が少しだけあるから接触する際には気を付けて」
「というと?」
「社長の中に堕天使ではなくて天使が数人いたのよ」
天使が大天使と接触しているのならば堕天使化させられているはず。特に関わりの深い相手ならなおさらだ。
「まあ杞憂だけれど。大天使は天使を堕天使化させようとする意志は強いけれど、それよりも欲望の達成に重きを置くの。だから、堕天使にしない方が計画を進めやすいって考えたから放置しているのだと思うわ」
「エリーゼが言うならそうかもね。でも心に留めておく」
大天使になっていたことのあるエリーゼだから信ぴょう性はあるけれど、信じすぎて失敗しないようにしないとね。
その後家に戻った僕は、ルーシーさんに報告した。
「じゃあアイツに頼もうぜ」
ということで僕たちが唯一コネを持つ議員、リチャードソンさんに会いに行くことに。
今日も国会が開かれていたので出口を待ち伏せして話しかけた。
「久しぶりだな、リチャードソン」
「やあ、君達がわざわざやってきたってことは大天使関連かい?」
一度大天使関連を経験しているので話が早い。
「そうだ。それで会ってみたい議員が居るんだが、連絡取れるか?」
「大体の方なら問題ないよ」
「じゃあレイモンド・サザーランドをよろしく頼む」
「分かった、聞いてみるよ。なるほど、だからああなったのか」
その名前を聞いたリチャードソンさんは、僕たちにOKの返事をした後、一人納得したように頷いていた。
「何かあったんですか?」
「いや、最近彼が急に痩せたんだよ」
「痩せたんですか?」
別に運動をしっかりしていれば普通のことじゃないだろうか。体質によっては痩せやすかったりもするし。
「そう。ただそれだけならおかしな話では無いんだけど、彼は美食家ってことで昔から議員の中で有名でね。毎日かなりの額を食費に使っているんだ」
「だから痩せるのは変ってことですか?」
「うん。元々彼は健康を維持するために運動をした上で太っていたからね」
確かに大天使になったことによる影響って考えたら自然な結論だ。
ってことはほぼほぼ大天使で間違いなさそうだ。
「それで痩せたなら確かに変ですね」
「私の話でもしているのかな?」
「レイモンドさん!」
3人で話していると、背後から声を掛けられた。
「あなたが」
「ああ。私が貴族院議員のレイモンド・サザーランドで間違いない」
レイモンドさんは先程話していた通り、60代くらいなのに健康的でスラッとした体で、白いひげの似合う元気なおじいさんといった形だ。
「話を聞いていたのなら話が早い。俺たちとどこかでゆっくり話さねえか?」
「構わんよ。ならリストア・ベントラルで良いかな?あそこの食事は絶品なんだよ」
レイモンドさんが提示したのは先日行った所とはまた別の超高級レストランだった。
「ああ、そこで頼む」
「分かった。では翌日の昼食の時間に来てくれ。楽しみに待っておるよ、ペトロ君、ルーシー君」
レイモンドさんはそう言い残し、従者と共にどこかへ去っていった。
「ルーシーさんはともかく、何で僕の名前を知っているんだろう……」
ルーシーさんの名前を知っているのは多分人気小説家だからだろう。
しかし僕の場合、一応貴族の息子で将来は跡継ぎになる事が決まっている身ではあるものの、そこまで知名度は高くないと思うのだけど。
「多分ペトロ君がノウドル大学の生徒だからじゃないかな。あの方、全校生徒の名前を覚えているみたいだし」
「全員って」
確か全校生徒の人数って10000人くらいいた気がするんだけど。
「ノウドル大学に入れた生徒はそれだけでもかなり優秀だからね。予め目を付けておきたいんだと思うよ。たまに大学の生徒引き連れて食事会してるらしいし」
「馬鹿じゃないのかアイツ」
ルーシーさんが素直な感想を述べた。正直なところ僕も同意見だ。
まだ自分の領地を持っている貴族が領民全員を把握しているのなら分かる。なんだかんだで一度や二度は関わる事の方が多いからだ。
けれど、大学生の名前を覚えた所で半分以上は一生関わらないだろう。
ならもっと別の方法がある気はするんだけど。
「ははは、だよね。まあそれがあの人の良い所なんだけど」
「なるほどな⋯⋯」
ルーシーさんは少し考える素振りを見せた後、何か決心した様子で、
「とりあえず会わないと話にならないか」
と結論付けていた。
「そうですね」
結局会わないことには何も始まらない。
「じゃあ帰るか。リチャードソン、今回は助かった。ありがとう」
「今回は何もしてないけどね。何かあったら次も頼ってね」
「ありがとうございます」
目的も果たしたので僕たちは一旦家に戻った。
そして翌日、僕たちは指定されていたレストランへとやってきた。
中に入ると店員がやってきて、レイモンドさんが居る個室へと案内された。
「失礼します」
「失礼する」
「やあ。待っていたぞ二人とも」
中へ入るとレイモンドさんが笑顔で出迎えてくれた。
「今日はありがとうございます」
「構わんよ。とりあえず席に座りなさい」
僕たちはレイモンドさんに促され、席についた。
「折角の美味しい食事だ。楽しく食べようではないか」
そう言った後、ベルモンドさんはご飯に手を付け始めた。
とても幸せそうに食事をしており、本当に食べることが大好きなのだと再確認した。
「あの後リチャードソンさんに聞いたんですけど、ノウドル大学の生徒たちを誘ってご飯に言っているんですね」
最初から本題に入るわけにもいかないので、軽く世間話から始めることにした。
「ああ。それが私の楽しみの一つだからね」
「楽しみ、ですか?」
「そうだ。まもなく社会に飛び立とうとしている若々しい子達と話すのはとても楽しいんだ。政治家って仕事はどうしても若い人と関わる機会が無いからね」
確か議員の平均年齢は50代位だったっけ。選挙で選ばれるという性質上、どうしても年齢が高くなりがちだ。
どのくらい出来るのか分からない若手よりも、長年経験を積んできたベテランの方が安心できるし、そもそも知名度が高いから選ばれやすい。
それに議員は国を動かす仕事なため、仕事相手も基本的に重役が多く、そうなると必然的に高齢な方の割合が高くなる。
若い方との交流に飢えていてもおかしくはない。
「まあ、美味しい食事をするいい口実だったってのもあるけどね」
みたいなことを考えていたら、レイモンドさんが笑いながらそう付け足した。
ただ食べたかっただけなんだなこの人。
「それで金は足りんのか?全部自腹で払ってやってるんだろ」
レイモンドさんの話を聞いていたルーシーさんが、突然そんな質問をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます