第25話

 武器を手に持ち迫ってくるルーシーさん達に対し咄嗟に戦闘態勢に入る騎士達。


「そうはさせない」


 そんな騎士たちをカマエルさんが守る。相手にならないと分かっているからだ。


「さっさとそいつらから元に戻したいんだけどな」


「それをするのは私を倒してからだ」


 騎士を守る騎士団長対一般市民。言葉にすると矛盾しているような戦闘が始まる。


 相手に攻撃の暇を与えないようにルーシーさんは剣で、レヴィさんはナイフで交互に攻撃し続ける。


 僕からすると二人とも凄まじい戦闘技術に見えるけれど、カマエルさんはいとも簡単に受け止めてしまう。


「素晴らしいコンビネーションだ。よく出来ている。だけど、まだまだだね」


 攻撃してくる二人を、剣の腹で吹き飛ばした。


「レヴィさん、ルーシーさん!」


「大丈夫、問題無いよ」


「切られたわけじゃねえんだ。ダメージは無い」


 思わず心配して声を上げたが、二人とも無傷のようだった。


「じゃあ行くぞ」


「うん」


 二人は再びカマエルさんに攻撃を仕掛ける。が当然通ることは無く、剣に全てを防がれていく。


「何度も言うが、その程度じゃ私には通用しない」


 そう言って再び剣の腹で二人を吹き飛ばそうとする。


「レヴィ!」


「分かった!」


 レヴィさんは相手の攻撃を一切無視して、カマエルさんの首に全力でナイフを振るう。


 そしてルーシーさんは剣の腹を避け、なんと自ら刃の部分に飛び込んでいく。


「しまった!」


 そんな奇行に一番反応したのはカマエルさん。絶対に当てるまいと慌てて剣を振り上げ、ルーシーさんの自傷行為を避けた。


 つまり、レヴィさんの攻撃を対処する手段が無くなったことを意味する。


 無理な剣の振り方をしたため、咄嗟に動くことが出来ないようで、ナイフは首元に吸い込まれて行き、


 ガキン!


 という音によって弾かれた。


 それは何かによって弾かれたわけでは無く、ただの首から発せられた音だった。


 僕だけではなく、後ろで守られていた騎士の方々も驚きの表情をしている。


「二人ともよくやるじゃないか。私の事を入念に調べた上で作戦を考えてきたようだ。思わず攻撃を食らってしまった。皆にはバレたくなかったんだけれど」


 ルーシーさんとレヴィさんは苦しそうな表情をしている。作戦は失敗に終わったらしい。


「バレたなら隠す必要も無いな。そうだ、私の体は非常に強固なんだ。君達程度の攻撃であれば通ることは無い」


 事実上の詰み宣言だった。


「それに面白いことが分かった。君達、善人では無いね?」


 それだけ言ったカマエルさんは、咄嗟に距離を取っていた二人に迫る。


 今回は剣の腹ではなく、しっかり刃での攻撃だった。一応防ぐことが出来た二人ではあったが、あまりの威力に体を吹き飛ばされていた。


「バレちまったか。これは無理そうだな」


 そう言ったルーシーさんは、僕たちを盾にした。


「え、ちょっと、ルーシーさん?レヴィさんまで!?」


 あんなにやさしかったレヴィさんも僕たちを盾にした。え、裏切られた!


 僕は思わず逃げ出そうとするが、服を掴まれて引き戻された。


「卑怯な真似を!味方じゃなかったのか!」


 助かったのか。カマエルさんが攻撃を止めてくれた。


「それよりも、こいつらを攻撃できるのか?正義の味方さんよお」


 小悪党だ……!


 僕たち非戦闘員を連れてきた理由は何となく察したけどそれでいいのかルーシーさん。


 それに賛同するレヴィさんもレヴィさんだよ。


「くっ!!!!!」


 僕たちを盾にしたまま、じりじりと接近する二人。


 いつの間にか優位はこちらに完全に移っていた。


「とりあえずそこにいる騎士から倒すか」


「そうだね」


 二人はカマエルさんに攻撃されないように気を付けながら、騎士を攻撃する。


 そしてレヴィさんの手によって堕天使から元に戻された。


「良し。帰っていいぞ!」


 正義への執着が弱まった騎士たちは、自分の命を守るために逃げ去っていった。


「せっかくの仲間を……!」


 騎士達を元の状態に戻されたカマエルさんは怒りの表情を向ける。


「さっさとやろうぜ」


「うわっ!」


 突如僕は持ち上げられ、本格的に盾として運用されることになってしまった。


 剣に備えて右へ左へ行ったり来たり。多分死なないとは思うんだけれど、無理に振り回されるので非常に辛い。


「少し抑えてください、吐きそうです」


 いくら乗り物に強いとはいっても、ここまでひどく揺られることは無い。下手したら揺られすぎで死ぬんじゃないかとまで思えてきた。


「勝つまで我慢してくれ!」


「おい、もっと丁重に扱いやがれ!」


 どうやら、レヴィさんの盾はジョニー君みたいだ。


「くっ!どうすれば……!」


 現状に耐えるので精一杯のため目の前の状況は一切分からないが、カマエルさんに攻撃は通っているらしい。


「これでどうだ!」


 ルーシーさんの攻撃により、初めて吹っ飛ばされたカマエルさん。恐らくこの戦闘初めてのダメージだ。


「まだまだだ。私の体はそんなにやわじゃない!」


 再び剣を構えこちらに向かってくる。そして僕はまた振り回される。


「くはっ」


「うっ」


 どうやらカマエルさんが反撃の術を見つけてきたらしく、攻撃がついに当たり始めたらしい。


「でも、こいつらを危険にさらさないように思い切った攻撃は出来ないみたいだな」


「その程度じゃあダメージにもならないよ!」


 しかし緩むことなく攻撃を続ける二人。


 そしてどれくらいが経っただろうか。


「くっ!私が負けるとは……」


 大ダメージを与えられたようで、カマエルさんは膝を地に付けていた。


「とどめだよ」


 そしてレヴィさんが最後に止めを刺した。


 と同時に僕とジョニー君は地獄から解放された。


「死ぬかと思った……」


「もう限界……」


 そこからしばらくの記憶が無い。


「あ、起きた。おはよう、ペトロ君」


 目を覚ますと、見慣れた家の天井と、ランセットさんの顔があった。


「ランセットさん……僕は一体?」


「カマエルさんを倒した後気を失っていたのよ」


 思い出した。あの野郎……


「カマエルさんはどうなったんですか?」


「ここに居る」


 扉の前に立っていたのはカマエルさんだった。


「えっと……」


「大丈夫だ。私はもう大天使じゃない」


「良かった」


 これでとりあえず一安心だ。あの後無事に処理が済んだらしい。


「今回はありがとう。助かったよ」


 カマエルさんは深々とお辞儀をした。


「いやいやいや。僕は何もしてないですって。頭を上げてください」


「そうか。ならそうさせてもらう。でも感謝しているんだ。お陰で国を破壊せずに済んだのだから」


「破壊?」


 正義を目指す側だったはずのカマエルさんから物騒なワードが飛び出してきた。


「それはだな」


 実はリチャードソン議員から絶縁宣言を受けた後、庶民院に手を伸ばそうとしていたらしい。


 あと少し遅ければ、ヘルド騎士団の息がかかった議員が多数立候補し庶民院の大多数を占めていたとの事。


 過半数の票を既に得てしまっている以上、たとえヘルド騎士団を失い圧倒的な支持率を失ったとしても議席数のごり押しでこの間のような法案が通る事態になっていたらしい。


 それは堕天使によるものではない為止めようが無く、法案自体は国民の多数に指示されている以上確実に施行されていた。


 その場合、ヘルド騎士団という圧倒的な武を持たない議員たちはクーデターを惹き起こされ、一切の抵抗を許されずに国家転覆が為されていた。


 もしそうでなくとも、議員の暗殺は確実に起こっているだろうとのこと。


「本当にギリギリだったんですね」


 まあでも、解決したのだから万事OKだろう。


「他の方々には既に伝えてあるのだが、言っておきたいことがある」


「言っておきたいことですか?」


「本日をもって、ヘルド騎士団を解散する」


「え?」

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