第22話
リチャードソンさんはこの間の選挙では当然のように当選し、貴族院議員となっていた。
新聞によると、今日が選挙後初めての議会となるらしい。
「これが国会か」
ルーシーさんは議事堂内に入るのは初めてらしく、珍しいものを見る目で周囲を見渡していた。
「思っていたよりも人が多いな」
「今までよりも注目されているってことだろうね」
議事堂内には、選挙後初めての国会を見学しようと市民が大量に集まっていた。
この国は市民が自由に国会を見に来ることが出来るようになっているのだけれど、観覧席が埋まるレベルで集まることは無い。
これはヘルド騎士団の人気の賜物ということだろう。
「君達も来ていたんだね」
国会の開始を今か今かと待ちわびていると、僕たちの隣にレヴィさんがやってきた。
「仕事に行ったんじゃないのか?」
「ほら、始まるよ。静かにして」
ルーシーさんの疑問は、国会が始まった時に解決された。
カマエルさんはリチャードソンさんの護衛を務めていたのだ。確かにこれならばどうしようもない。
「それでは第一回国会を開催いたします」
議長の挨拶から議会は始まった。
選挙後初の議会ということもあり具体的な法案などを話し合うのではなく、議員としての役割を分担することからスタートした。
予め調整を済ませていたのか話し合いが拗れることは無く、1時間ほどで全員の分担は終了した。
そこから本格的な国会が始まり、今年度の予算案や新規の法案の提出など様々なものが議題へと上がっていた。
そして国会も終盤に差し掛かろうとするころ、リチャードソンさんが前に出る。
「では私から、法案を提出させていただきたいと思います」
提案された法案は、税制の改革に関するものだった。
先日法案に上がりほぼほぼ可決の方向にあった税制の修正案。
新たに取得した金銭に一定の税を貸す所得税の増税を辞め、既に持っている財産から税を取る財産税へ変更するというもの。
その根拠として、変更によって見込める税金の総額と、国民全体の負担の重さを例に挙げていた。
当然議員からの猛反発があった。莫大な額の税が貴族に課されるためだ。
貴族は何世代も前から財産を貯めこんでいるため、基本的に莫大な財産を持っている。
だから金持ちと言われているのだが、収入が多い貴族はさして多くない。自分の領地を持っている貴族に関してはそこそこあるが、ノウドルに住んでいるような自分の領地を持たない貴族は自分自身で稼ぐ必要があり、上限もたかが知れている。
十分な教育を受けている分普通よりは稼げるのだろうが、本当にそこ止まりだ。
逆に市民は先代から受け継いだ巨大な財産みたいなものは無いため、かなりありがたい法案であると言える。
そんな市民に一方的に有利な法案を貴族院で通そうとするのは確実に無理と断言できるものだった。
実際見に来た方々もこれは流石に通らないだろうと理解しているのか、大して盛り上がりはしない。
「そうですか。ならばこれを見てください」
本人も理解していたのか、何かを用意し議員に配っていた。どうやらサプライズで用意したらしい。
「これは不正の記録です。一部議員の方々が、賄賂を受け取り前回の税制案を通していました。読み上げますね」
リチャードソンは実名込みで賄賂に関する詳細を述べ始めた。賄賂の行われた場所、賄賂を受けた側、賄賂を投じた側。その理由などをそれはそれは丁寧に。ありえなさそうな話だが、余りにも事細かに、矛盾を感じられないように話しており、まるで本当の話に聞こえる。
「何をふざけたことを言っているんだ!」
実名で挙げられた議員の一人が怒り出し、リチャードソンさんを止めようと試みた。
「おやめください。話の途中です」
ボディーガードと共に歩み寄ろうとするが、止められる。ヘルド騎士団団長のカマエルさんの手によって。
「ふざけるな!」
いくら自分の味方が優秀なボディーガードとはいっても、国内最強騎士と名高いカマエルさんには勝てないと判断したようで、渋々自分の席に戻っていった。
「以上です」
そして誰にも遮られることはなく、リチャードソンさんの主張は終了した。
「それに関しては」
「ふざけんな!」
「何のための議員だ!」
「この詐欺師!」
議長は真偽を確かめるために名を挙げられた議員に詳細を聞こうとしたのだが、国会を見ていた市民によって遮られる。
ヘルド騎士団が付いている時点で本当の事だと信じて疑わないのだろう。
「どう思います?」
僕は3人に聞いてみた。
「やり方は問題だけど、嘘は言っていないと思うよ」
「同感だ」
「俺もそう思う」
レヴィさんの意見に同意するルーシーさんとジョニー君。真偽を疑う気は無いらしい。
「どうしてですか?」
「もしカマエルが大天使なら、アイツの欲は正義だ。なら根拠なく人を断罪することを絶対に許さないはずだ」
と語るのはルーシーさん。
「それもあるが、こんな大舞台で真っ赤な嘘を話してバレてしまった場合、ヘルド騎士団もリチャードソンも信用に大きな打撃を受ける。議員になって最初の国会でそんな大博打をするとは思えねえ」
とジョニー君。
「ということはこの話って本当なんですね……」
そう思いながら議員を見ていくと、顔面蒼白になっている議員と顔を真っ赤にして怒っている議員が数人見られた。席の名前を確認すると、どうやら名を挙げられた議員らしい。
それはこの主張が本当であるということを暗に表していた。
「それに証拠はあるのでしょうか。まさか出鱈目を言っているわけでは無いでしょうね?」
そんな状況下で席を立ち、リチャードソンさんの元へ歩んでいったのはノーマン・ヒルトン・スミス議員。
貴族院の中でも立場が高い有名な議員だ。先程名前を挙げられた議員でもある。
先程名前を挙げられたにも関わらず、余裕の表情を崩していない。
「これが証拠です」
この展開を予想していたかのように資料を取り出したリチャードソンさん。
遠目なため何を渡しているのかは分からないが、写真とその詳細を書いた書類だと思われる。
「罪を認めやがれ!この外道!」
「ひっこめ!」
市民はノーマン議員を罵倒しているが、それを気に留めることなく資料に目を通していた。
「なるほど。一部の人間は完全に黒なのかもしれないね」
疑われている身でありながら、あっさりとその点を認めた。
「ただ、私や数人の議員には確実な証拠は存在しない、そうだろう?ここから読み取れるのは、あくまで賄賂を渡しているかもしれない人と高級レストラン食事をしただけ」
「その時点で賄賂を受け取ったのと同義では?それにその時期はあの法案を通す直前です」
確定ではないかもしれないが、状況証拠的に黒と言っても差し支えない。
「そうかい。そう思われてしまうとは私は悲しいよ。ただ友人とご飯を食べていただけなのに」
悲しい表情を見せるノーマン議員だが、演技のように見える。
それ以後ノーマン議員や他の議員からの反論は無かった。全員が席に戻った後議長は後々場を設けて真偽の決着をつけることにして進行を再開した。
市民の声はそれどころでは無かったけれど。
そんな大騒ぎの中、国会は何事も無く終了した。
「酷い国会だったな」
「ヘルド騎士団の人気ぶりが良く分かったよ」
国会自体は別に悪いものでは無かったんだけど、リチャードソンさんの告発以後市民の騒ぎようが酷くて話が余り耳に入ってこなかった。
気持ちは分かるんだけど、喋っている時くらいは静かにして欲しかった。
「とりあえず僕はチャンスを伺ってみるね」
そう言ってレヴィさんはカマエルさんを追跡するためにどこかに向かって行った。
「俺たちはリチャードソンを、って言いたいところだが、ありゃあ無理だな」
ヘルド騎士団のファンだと思われる方々に囲まれており、近寄ることすら叶わなそうだった。
後日、リチャードソンさんと接触するために国会等を訪れてみたは良いものの常に誰かに囲まれておりどうしようも無かった。
レヴィさんも収穫は無かったようで、カマエルさんに接触すら出来なかったとの事。
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