普通の日常は何処に

花道優曇華

第1話「新しい鳥羽家に」

小学生から中学生になる頃に引っ越した。父親の転勤。そして今日、また戻るように

引っ越すことになった。


「セイラちゃん、いらっしゃい」

「おばさん!」


鳥羽美知佳という女性。彼女がいる鳥羽家には既に三人の男児がいる。


「大変だったわねぇ、天涯孤独になっちゃって…これからは沢山甘えて頂戴!

私がお母さんになるからね」

「はい!」


美知佳とセイラの父の弟、叔父の藤次郎。二人と三兄弟はこの大きな屋敷に

住んでいる。その三兄弟とは従兄弟の関係。上からたける、大和、

和樹。この三兄弟、揃って武術を習っている。もう、この家にいれば警察は

要らないのでは…。


「お、セイラ!これからここに住むんだろ」


和樹がやって来た。彼は大和と双子。弟。彼と共に大和たちもやって来た。

部屋に荷物を置いてから再び下の階に戻って来る。美知佳と藤四郎は長く家を

空けるときが沢山ある。今回もセイラが家に来てからすぐ突然の出張で揃って

家を出て行くという。


「あら、どうしたの?セイラちゃん」


夜。台所を覗きに来たセイラ。台所に立っているのは6人分にしては多い量の

ご飯を作る美知佳。


「何か手伝いたいんですけど…」

「じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。猛と大和は凄く食べるから、量も沢山

作る必要があるのよ」


鳥羽猛、190㎝。鳥羽大和、180㎝。鳥羽和樹、170㎝。そして鳥羽セイラ、160㎝。

あくまでも大まかな数字。年頃の男子、色々大変らしい。

夕飯の時間になり一つのテーブルを6人で囲む。猛と大和は競うようにかぶりつく。


「そういえば、今日は要君に会ったよ。セイラちゃん」

「要君に?でも、どうしてそれを私に…」

「アッハッハッ、実はな。この家にいることを教えたら、よろしく言っといてくれと

頼まれてしまってね」


乙坂要、女の子らしい名前とは裏腹に凛々しい顔つきの少年だ。彼は八雲学園の

姉妹校、三雲学園に通っている。小学生の頃から知っている仲だ。


「彼はいつも三雲学園で練習してるって言っていたよ」

「ん?練習?」

「聞いてなかったのか。八雲学園は色々な部活が盛んでね。要君は学園の

ボクシング部の主将だったはずだよ」


目を丸くした。運動神経が良いのは知っていたがそこまでとは思っていなかった。


「で、で、セイラちゃんは初恋とかしてないの~?」

「うーん…してない、かな。中学校の時は男の子が嫌いだったから」

「えぇ!?どうして?」

「からかわれたから、かな?それに、顔と性格が良くない人しかいなかった」


本当なら傷つくところだ。そして聞き捨てならない言葉。セイラの前向き思考に

驚かされて深くは踏み込まなかった。


「友達もね、付き合うなら高校からの方が絶対良いって言ってたし」

「そうなのね。セイラちゃん、顔も性格も良いから絶対見つかるわよ。応援してる!

おばさん、セイラちゃんの恋を応援するからね!」


本気で意気込んでいるのはあくまで美知佳と藤四郎だ。本人はそこまで

本気になっていない。欲しいっちゃ欲しいけど無理して探しに行くつもりはない。


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