第7話

 ハルと別れてギルド方面に歩を進めていると、昼間では気づかなかったが呼び込みをしている食事処、宿屋らしき建物に入っていく人達、細い裏路地に向かっていくカップル等見かけた。


 んー…結構宿屋もあるんだな。これは一度ギルドに行ってお勧めの宿を聞いたほうが良さそうだ。昼間にいたラミアっ子がいてくれたらいいんだが…流石に受付交代しててもおかしくないよな。


 そう考えながら俺はギルドに入っていく。建物内では併設されている酒場で乱闘騒ぎが発生しており、店員さんが鎮圧しているところであった。店員さん強いな…そうじゃなきゃ屈強な探索者を取り押さえることは無理なんだろうけど…ということは受付嬢もかなりの力量なのかも?そう考えると下手な事出来ないって思い緊張してきた。


 受付も今は空いているようだな。時間帯的に夕方の依頼報告ラッシュが終わったって感じかね?それならギルドに用事があるときはこの時間を狙うべきか。


 受付には3人立っていた。黒いローブで顔まで隠したいかにも死神っぽい鎌を背負った小さな子、顔が青白く覇気がないように見える子(リビングデッド?グール?)、そして昼間に対応してくれたラミアっ子。


 俺は迷いなくラミアっ子の前に進んでいった。


「あ、あなたは昼間の?依頼を受けに来たのでしょうか?ただ…本日の依頼はほぼはけてしまって…高ランクの方用の依頼しか残っていないのです。常設依頼でしたらありますが…?」


「あー、依頼じゃなく相談かな?お勧めの宿を教えて欲しいんだ。」


「え、えっと…私達受付嬢は基本探索者の方達とそういう行為は禁止されているのですが…特定の人を優遇というか…関係を持つというのは…」


 …このゲームの人達、なぜそっち系に勘違いするんだろ…人口で考えると数が少ないとかで産めよ育てよって方針なのか?ラミアっ子は顔が赤いけど、他の2人の俺を見る目がなんか冷たいんだが…


「はぁ…連れ込み宿ではなく探索者が通常泊まる宿ね。今日会ったばかりの人と関係を持ちたいとかおかしいでしょ…出来れば安くて安全性に問題がないところがいいんだが。」


 俺が訂正すると更にラミアっ子は赤くなった。他の受付嬢も申し訳なさそうに俺を見ているから誤解が解けたようで何よりだ。勘違いされるのは迷惑だが、それだけこのラミアっ子が大事っていうのが伝わったから改めて謝罪とかは要求しない。


「申し訳ございませんでした!この洋紙に店舗と値段が載っていますが私の主観でよろしければ…潤う若葉亭がよろしいかと。安いのに安全性が高く、食事も良くて人気なんですよ。」


 そうラミアっ子が答えると隣の死神っ子が口をはさんだ。


「ペルル、そこは女性に人気でもあるからこの方にとっては居心地が悪くなるよ?小鳥の止まり木亭がいいと思う。安くて広めの個室を借りれるし、追加料金を払えば部屋にある浴槽にお湯を張ってもらえるし。」


 おぉー風呂にも入れるのか。追加料金の値段次第だが、生活に問題がでない程度に探索をすればいいか…常設依頼の報酬を後で確認しとこう。


「それじゃこの死神さんの言う宿にしてみるか。流石に女性が多い宿だと肩身が狭くなってしまうからな。」


「私はアーテル。こっちの子はベリルよ。宿はギルドを出て左へ3軒先になるわ。ペルルの言った宿はその正面。」


「ありがとう、助かったよアーテルさん。それとペルルさんも。それじゃ常設依頼をちょっと確認してから向かう事にするよ。」


「あ、ありがとうございました!」


 お互いにお礼を言い、俺はクエストボードへ向かっていった。アーテルさん、フードを被ってて顔は分からないけど声が高いのに驚いたな…しかもふわふわ浮いて仕事をしてた。背が小さいからカウンターに届かないのか…?ベリルさんは焦点の合っていない感じで眺められててちょっと不気味だったんだが。




 クエストボードには常設依頼の他、高ランク御用達っぽく縁取りされた依頼書が張られていた。…ほうほう、1件当たりの報酬は受付で見せてもらった宿屋での素泊まりにちょい足らないくらいなのか。といっても常設依頼だから1件当たりの報酬が低いだけっぽい。ただ、薬草採取系は5本1セットとなっているから複数回報告することが出来るようになっている。これならなんとかなりそうだな。


 街から少し出た所が主な群生地となっているが不人気なのか?ま、他のプレイヤーが探索や討伐系をメインで受けるなら採取メインにするか。常設だから期限がないのがいいね、依頼を受けなくても後から納品すれば済むみたいだし。…あとで採取の注意点をガイドブックで確認しとこ…


 確認が終わったので受付嬢達に軽く会釈をしてから宿に向かった。小鳥の止まり木亭は木造でレトロな雰囲気の宿だった。正面にある若葉亭はなんかオシャレな喫茶店か?と思える外観だから対比が凄い。


「いらっしゃい!おや?外国の方かい。」


 いきなり言い当てられてビックリなんだが…


「外国の方ってそんなすぐわかりやすいものなんですか?」


「そうさねぇ、雰囲気もあるけどあんたって魔人じゃないかい?魔族の中でもすでにいない種族だからさね。種族の血を求めて襲われる可能性もあるから気を付けな。」


 なんだそれ!?捕食されるのか!?そういえばハルもなんだか怪しかったし、ペルルさんもおかしかったな…


「なんだか勘違いしている気がするんだけど、まぁ食われるってのもあながち間違いではないさね。純血の魔族なんて今時珍しいから血を取り入れたい種族も多いさ。」


 あー…そういう意味での食われるね…血が混ざりあう事により能力が上がるっていうやつか。純血よりハーフのが弱点がなかったり多様性が生まれるんだっけかな。


「な、なるほど…気を付けておくよ…外国人だから長期滞在になるかもしれんが宿代は自動で引き落とされるのか?あとは風呂の値段も確認したいのだが…」


「男だったらモテて嬉しいだろうに、あんたは違うんだねぇ。そうさね、外国人用の部屋だから向こうに帰っている間は料金は引かれんようになっとるよ。実滞在時間によって徴収ってとこさね。風呂は1回あたりの値段になっとる。…こんくらいかかるかねぇ。」


 ほほう…結構良心的な値段だね、食事代と変わらんくらいだから普通に付けてもらってよさげだ。アーテルさん、紹介してくれてありがとう。


「それなら風呂もお願いするよ。」


「ならこの鍵で205号室にお行き。風呂は使ったら回数が分かる仕様となっているからね。」


 俺は鍵を持って2階に向かった。鍵で扉を開けるとなかなかの広さだった。1Lだけど8畳くらいあるんじゃないかこれ?ベッドも付いているし、風呂もトイレと別になっている。普通にいい部屋だな…


 とりあえず風呂かな?魔道具によって一瞬でお湯が張られるのは素晴らしい。現実でも欲しくなる。

 服を脱いで浴槽に浸かる。というかさすが成人以上のゲームだな、普通に服が全部脱げた。インナーだけ外せないのかと思ったが、設定をよく見ると脱げる仕様に変更できるとのこと。風呂はやっぱ裸で入らんとな、ゲームだとしても。探索に出るときは脱げないようにしないと薄い本が厚くなる可能性があるから注意しなければ。


 こうして俺の1日目は終わった。やる事が多すぎて何から手を付ければいいのか分からないが、こうした手探りでの探索は面白い。自分の行動で結果が変わるのもな。


 そういえば…昼間に覚えたスキルがあったっけ。


【昼寝】

説明:日差しのある外で寝ることにより一時的にステータスが上昇

 熟練度が上がると持続時間と上昇率が上がり、スキルが発動するまでの待機時間の減少、環境条件の緩和


 うん、俺のライフスタイルにピッタリだな。

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