2章 第4話『変態』

「で、どうやって勝ちますの?」

エメラルドの双眸が俺の瞳を覗き込む。


「あいつの異能の想定はいくつかしているが、はっきりいって強敵だ」

「じゃあ、どうしますの?」

「そりゃあ、得意な部分で勝ちにいけばいいだろ?」


俺を見つめていた翠玉の瞳を持った少女の方を見て、ニヤリと口の端を歪める。


「何をさせますの?言っておきますけど、私の目の黒いうちは卑怯なやり方は許しませんわ」

奴隷が、主人の俺に対して自分の信念を告げる。


「お前も結構卑怯だったじゃねぇか」

少女の言葉に説得力はなかった。

この少女はカマトトぶっているが、俺のことを騙そうとした経験がある。


「ふんっ。目には目を歯には歯を、ですわ。詐欺を働いていた人にはこちらも詐欺を働いて、相手の土俵で勝つのが私のしきたりですわ」


「そんな風な相手の得意分野で戦うっていう王者の戦いをしたのか。さすがだな」


俺の言葉に対して黒川紗耶香は得意げに


「正しい政治は王道によってのみ起こるのですわ。弱者のことを慮るのは当然ですわ。ノーブリス・オブリージュですわよ」

ノーブリス・オブリージュ、貴族・富んでいる者の義務か。


「奴隷のお前が言うと面白いな。ってか、それで負けてりゃ世話ねぇな」


戦い前の下準備はかなりしているとはいえ、そんな戦い方で今まで奴隷になっていなかったって素のスペックは相当だな。スペック自体は高くない俺とは違う。


「あなたが異常なのですわ!いくら天然の異能もちと経験があるからと言って学園の異能の存在も知らないで、挙句の果てに命懸けのダイブをして勝つっていうのが意味が分かりませんの。この学園の生徒ならもう少し理論を使ってリスクヘッジをとるべきですわ」

本当は、雪野の指摘する異能もちとはアメリカで命がけの戦いをしたのだが、それはこの真っ直ぐすぎる生徒会長には伝えていない。


「はあ?意味わからんぞ。俺は、命なんて1mmもかけてねぇぞ。お前がこの学園の生徒である俺をあの状況で助けない確率は0%だったからな」


「異能のことも知らなかった輩が何をおっしゃいますの?私の何を知っていてそのような確率計算が成り立ちますの?」


「う~ん、クラスメイトにもお前の性格は聞いていたし、そもそも『学園内で詐欺が横行している!正義の鉄槌をくださねば!!』みたいになる奴がおまえだろ?やっぱり、俺のことを助ける確率はどう考えても100%だろ?」


「あとからならば何でも言えますわ!」


「そうだな。論理ガチガチで心情までは計算できないお前に言ってもそのことは仕方ないことだし、もういいや。ただ、ご主人様として、頭はいいけど素直すぎるお前に一つ宿題を出してやろう」


「えらそうに何ですの?」

エメラルドの瞳を黄金の瞳にかえて、イライラしながら少女は左手の親指を嚙む。

中途半端なことを言ったらご主人様だろうと何だろうと即座に異能を使って潰してやろうというほどの勢いをもった少女は、黄金の瞳と一迅の風を携えて俺を睨んでくる。


「誰も予期しない最悪の未来を事前に防ぐことができた人がいた時に、その人はどういう扱いを受けるでしょうか?」


「はあ?何を言ってますの?そんなの決まっていますわ!万人から慕われて拍手喝采の雨嵐ですわ。最悪の事態を防いだ人は英雄にすらなりえますのよ」

俺の突然の質問にも、生徒会長はしっかりと考えて答えを出す。

だが、

「ブッブーはっずれー」


「じゃあ、どうなるんですの?」


「正解はただの”変態”になる、でした!」


『未然に防いだ人が英雄じゃなくて変態なんて頭がおかしいんじゃないですの?分かりましたわ。そうやって、私の主人になったことをいいことに私をからかって優越感に浸っているんですわね?そうなんでですわね?』きゃんきゃんと喚いている少女を俺は、無視して『彼女』のことを考える。

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