第一章エピローグ 『信頼』
「はあ???そんなことも知らずに私に勝負を挑んだんですの?呆れましたわ」
金髪の少女、黒川沙耶香は、主人となった俺に対してバカにした声を発した。
「仕方がねーだろ」
仏頂面になりつつ、彼女の罵倒に、力のない返事をする。
俺は紗耶香を奴隷にするまで能力含めてこの学校の特色なんて全く知らなかったし、彼女の言葉は実に的を得ていた。
「それにしても、本当に知らなかったんですの?この学園が能力者養成学校だって。よくそんなことでこの学園に転入できましたわね」
「知らないもんは、知らないんだよ」
「ふ~ん。いきなり、学園の最高峰であるスプリ―ム4たる私に挑んできたりしているのにそんなことを知らないなんてあるのかしら?まさか、私との勝負にもイカサマまがいのことをしたんじゃないでしょうね」
俺への疑いの眼差しを向けるライトグリーンの瞳。
「んなことはしねーよ。俺は、高潔で綺麗なお嬢様とお手合わせ願いたかっただけだ」
能力といい、自身の正体を隠したことといい、イカサマまがいのことをしたのはてめぇの方だろ?と思いながらもそう口にした。
こらからこの紅葉学園を支配していくためには、これからもスプリーム4かつ生徒会長の黒川沙耶香の『信頼』は必要だ。ここで、歯向かうのもよくないだろう。
「あっ。そ」
そう言って、金髪の美少女は俺から目を逸らす。
凡そ、奴隷という響きが似合わない言葉を発してくる少女にも文句は言わない。
なぜなら、
「それで…。私と戦えた感想はどうだったの?」
金髪を人差し指でパスタみたいにクルクルしながら俺に声をかけてくる。
ライトグリーンの瞳が不安と、期待に揺れる輝きを見せる。これは、奴隷として俺につかえるようになってから時節見せる表情だ。
誤解のないように言っておくが紗耶香は俺に恋しているわけではない。
正確に言えば、紗耶香は恋をしかけている可能性はあるが、幼稚園児の恋愛だ。
恋愛対象となり得る人がいなかった紗耶香にとっての初めての対等以上の人が現れたことによる疑似的な恋愛感情に過ぎない。それはさながら、ドラマを見て付き合うということ自体に憧れ身近な人しか見ることのできない恋愛だ。
対等な関係の人がいない頂点に立つ紗耶香にとって初めて自分の上にたつ人間ができたことで心の底のどこかで俺からの評価を気にするようになっている。その評価を気にすることに気付いた時には、そのことを『恋愛』とこれから先の未来に錯覚する可能性はある。
それを思わせる表情だった。
「あ~。まぁまぁかな。御しやすい相手だったしな」
だが、俺は、ナチュラルに煽りをいれてしまう。
口に馴染み切った煽りの言葉は無思考に紡がれてしまう。
『いかん。こいつはもう敵じゃないんだった』
そうとっさに思ったが、それを訂正する間もなく紗耶香はすぐ反応した。
「何よ!そのバカにした言い方は。あなたなんて、私が助けていなかったら、無惨にアスファルトに真っ赤な染みを付けていただけの存在じゃないの」
俺の煽りに対して、大層ご立腹の黒川沙耶香が目の前でむくれていた。
ぱっと見た感じには怒っているような表情。
だが、そう言いつつも俺は、彼女の表情筋がほんのり緩んでいるのを見逃さない。
よく見ると、どことなく楽し気に見える。
「そうだな。ありがとな」
俺は、そう言って金髪をほぐすようにゆっくりと、彼女の頭を撫でる。
「ふんっ。最初から感謝しなさいよね」
どうにかこうにか、スプリ―ム4の一人を奴隷にすることと、信頼を少なからず得ることができたようだ。
だが、この信頼は『強さ』によって担保された細い『信頼』ということを肝に銘じておかなければならない。
彼女の前に現れた彼女と対等以上に戦える相手としての信頼。
それが失われないように俺は、勝ちへの決意をより一層強くした。
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