第十五話 『7分』
コツン、コツン
地下に靴音が鳴り響く。
周囲の者にはそれが、黒川沙耶香の勝利へのカウントダウンに聞こえる。
地図が指し示す地点は刻一刻と迫ってきていた。
だが、
「月野、急ぐわよ、思っていたよりも時間がないわ」
時刻は、17時47分。
想像以上の地下の通りの複雑さに、黒川沙耶香の部下たちは、手を焼いていた。
17:25を回っても、包囲網はほとんど縮めることができなかった。
それでも、途中から黒川紗耶香、本人が指揮に加わったことで、事態は終息を迎えようとしていた。
黒川沙耶香の圧倒的な才能が彼らの道しるべとなったのだ。
彼女の指示により全ての人が最適な移動をするようになった。
20以上のグループに的確な指示を出す姿は、音に聞く『天上 才気』を想起させるものだった。
圧倒的な才能をもつものがすべての指示を出す方が、才能のない者が一人一人考えるよりも圧倒的に効率的。
それを地で行く姿。
戦場の女神のような姿に月野を始めとした部下たちは、改めてこの女王についていくことを決意する。
既に、黒川沙耶香たちは香川天彦を指し示す地点の側に来ていた。
あとは、三叉路になった突き当りを右に行くと、香川天彦がいると指し示している場所だ。
そこは、行き止まりの袋小路となっていた。
「チェックメイトよ。香川天彦。あなたも粘ったようだけど、これで終わりね」
その袋小路に向かって、『触れることのできない女王』の伸びやかな声がこだまする。
だが、
彼女の伸びやかな声がこだまするだけで、香川天彦からの返事はない。
「私は、地下の地図を持っているわ。万が一にもあなたの勝ちはないわよ」
彼女は投降の催促をする。
それでも、やはり返事はない。
「いいわ。月野、哀れな敗北者に最後のスポットライトをあててあげなさい」
そう言って、小さな袋小路に月野がライトを向ける。
「「いない?!」」
その場にいた者が声をあげる。
悲鳴にも似た声。
その中で、黒川沙耶香だけが冷静な声を上げる。
「あなたたち、本当に逃がしていないのよね」
「逃がしていません」
「人っ子一人、鼠一匹逃がしちゃいないっすよ」
「それより、時間が…。もう、7分しかありませんよ」
黒川沙耶香には野望がある、こんな所で負けるわけにはいかなかった。
彼女はもう一度、ライトグリーンの瞳を光り輝く金色に変え、静かに左手の親指を嚙む。
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