第14話 みいことおとや(4)
「ずいぶん寒くなったわねぇ」
そう言って手をこすり合わせ、みいこは窓を閉めた。
雪がちらつく十二月でもおとやの侵入経路は変わらない。寮の三階にあるみいこの部屋まで壁を登るのだ。
「こんなに寒くなると、登ってくるのも大変なんだぜ。手がかじかんで言う事きかないし、寒くてあちこち痛いし」
「だから、別にわざわざここまで来なくていいって言ってるじゃない。落ちたら危ないし、いつまで先生方に隠し通せるかわからないわ」
演劇部のスターにして学園の姫たるみいこと、全運動部の頼れる助っ人であるおとやのカップルは、それはそれは目立つ。二人の時間を大事にするため個室で会うようにしているが、なにも他にまったく場所がないわけではないのだ。
教室や食堂は人目が多くて二人が会うのに向かなくても、温室や屋上など、落ち着いて会える場所は校内にいくらでもある。
「いや、大丈夫。絶対落ちないしバレないから」
しかしおとやはみいこの部屋以外で会うことを断固として拒み続けているのだ。
「あなたそこだけは絶対譲らないわよね。そんなに女子寮に来たいの?」
からかうように、くすくすと笑いながら言うみいこ。
するとおとやは不服そうに唇を尖らせ、言った。
「オフの姿、誰にも見せたくない」
「へ?」
予想外の返答に驚き、みいこの口から変な声が漏れる。
おとやはしまった、とばかりに眉をひそめたが、やがて観念したかのように説明した。
「みいこ、学校にいるといつも気張ってるじゃん。オレと二人のときのリラックスモード、他の奴に見せたくないの」
みいこの口がぽかんと開く。
頭の中でおとやの言葉を解析し、一つの答えにたどり着く。
「独占欲……?」
「うっ、うるさいな!悪いかよ!」
照れくさそうに語気を強めるおとや。
みいこは嬉しそうにほほえみ、まさか、と応えた。
「みんなが欲しがるあなたの放課後を独占してるんだもの。私、あなたのこと笑えないわ」
運動部のスーパースターを独占する少女と、学園中の憧れの姫を独占する少年。
幸福と、ほんの少しの罪悪感を抱えて、二人は今日も穏やかに過ごす。
二人が幸せであることを全校生徒が祈っていることを、二人は知らない。
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