第2話 ちなつとけいし(1)

 とさん、と小さな音をたて、ちなつは持っていた本を棚におさめた。


「これでよし、と」


 本棚の間をぬって歩き、一人の少年が座る机へ向かう。




 中間テストを来週にひかえた愛咲あいさき学園の図書室には、勉強する生徒が多く見られる。



 ちなつは、人気のない図鑑コーナーの椅子を引いた。



「けいしくん、順調?」

「だめ。ぜんっぜんわかんねぇ……」



 けいしはやっと黒くなりだした金髪をかき、教科書につっぷした。


 ちなつはその手元をのぞきこみ、まったく進んでいない問題に苦笑する。

 もっとも、二歳年上のけいしの解く問題は、さすがのちなつにもわからないのだが。



「中学生はいいよなぁ、点数悪くても補習とかないし」

「けいしくん、補習出ないじゃないの」

「図書委員長サンがかくまってくれるおかげですよ」


 つきあいだして約一年。ちなつが補習教室から逃げ出してきたけいしをカウンターの下にかくまうことは、もはやテスト期間後の定番となっていた。



「でも、どうして今回そんなに頑張ってるの?いつもは勉強なんて前日もしないのに」


 けいしは大きな目でちなつを見上げ、


「今回の補習、ゴールデンウィークなんだよ」

「だめなの?」


 当然のように首をかしげたちなつに、けいしはお前感覚狂ってきたな、と笑い、




「ゴールデンウィークは、堂々とちなつとデートしたい」




 その言葉に、ちなつの顔がかぁっと赤くなる。


 けいしはそんな彼女をからかうように、

「ま、ちなつの機嫌取りは数学よりムズいけどな」


「そんなことないよ!」

 反射的に言い返したちなつはさらに顔を赤らめて、



「私だって……けいしくんとデート……行きたいもん」



 今度はけいしの顔が、手にした赤ペンよりも赤くなる。





 二人は上目づかいで見つめあい、同時にぷっとふきだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る