恋の話束

涼坂 十歌

第1話 まどかとさとる(1)

「まどか」


 名前を呼ばれ、まどかはぱっと顔をあげた。

 その声を聞き間違えるはずもないけれど、教室の入り口に立っていたのは大好きな大好きなさとるだ。


「さとる!終わった?」

「うん。待たせてごめんね」

「ううん。さとると帰れるなら、わたしいつまででも待っちゃうよ」


 まどかは広げていた宿題のノートと教科書を閉じ、かばんにつめこんだ。

 よいしょ、とかけ声をかけて重たいかばんを背負うと、ぱたぱたとさとるのもとにかけよって行く。


 まどかよりも十センチほど背の高いさとるは、足が長くてスタイルがいい。さとるのものは、普通の制服も揃いのかばんも全部みんなのより数倍かっこよく見えた。



 教室に鍵をかけて職員室に返し、二人は並んで学校を出る。




 二人は、中学二年生。一年生の秋に付き合い始めたカップルだ。運良く今年も同じクラスになれ、まどかは毎日幸せな気持ちで登校している。




「サッカー部、今度の連休合宿なんだっけ?」

「そうだよ。今日はその説明。ほんと、宮部先生話長いんだよ。ごめんね、長い間待たせちゃって」

「ううん。全然大丈夫!さとると帰るの楽しいもん」


 満面の笑みでさとるを見上げるまどか。

 さとるも優しくほほえんで答える。


「僕もだよ。まどかと帰るの楽しい」


 まどかはどきんと跳ねた心臓から逃げるように、


「えへへ。そうかな……」


 とはにかんだ。

 さとるがくすくすと笑ったのを感じ、鼓動がますます速くなる。

 真っ赤になった顔に照れくさそうな笑顔をうかべ、まどかは意地悪な口調で言った。


「あ、じゃあわたし、今度わざと宿題忘れて、帰るのうーんと遅くしよっと!」


 さとるの反応が気になって、目線だけで彼を見上げる。

 さとるはまっすぐ前を見たまま、


「いいよ。じゃあずーっとまどかのこと待ってる」


 驚いたまどかが声をあげる前に、左手にさとるの手が触れた。

「え……?」

 戸惑うまどかの左手をきゅっとにぎり、さとるは恥ずかしそうに笑う。



「みんなと帰る時間がずれたら、ずっと手をつないで帰れるよね」



 まどかの顔が、かーっと熱くなる。

 歩幅の大きいさとるに手を引かれながら、

「ずるいよ……」

 とつぶやいた。

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