第4話 クリスとの再会

 なにもない枝に花を咲かせてしまったクリス。

 彼の天才的な白魔法を見せつけられ、私は完全に打ちのめされてしまった。

 明らかに存在する才能の違い。

 私は自分に、他の人にはない特殊な力が宿っていると思っていた。

 でも違ったのだ。

 私ではなかった。

 特殊な力を宿しているのは、私ではなくクリスだったのだ。

 クリスの得意としているのは、攻撃系の黒魔法だ。地域選抜にも選ばれている彼のその才能は、誰もが認めるところだ。

 しかし白魔法までもが、私を簡単に凌駕してしまう力を持っていたなんて。


 この日以来、私は完全に自分を見失ってしまった。


 もう魔法はあきらめよう。


 気弱な思いが私を支配する。自分には魔法という厳しい世界で生き抜いていく強さがない。大好きだった魔法が、重たい足かせのようになってしまっている。


「どうしたんだアナスタシア、最近元気ないけど」


「えっ?」

 私は声をかけてきた人物を見てびっくりする。

 そこには、私の自信を完全に奪ってしまった張本人、クリスの姿があったのだ。


「なんだか、思い詰めているように見えるけど」


「う、うん」

 この男にだけは負けたくなかった。けれど、これだけの実力差を見せつけられてしまうと、もうそんなことはどうでもよくなってしまった。私は思っていることを素直に口にした。

「もう、魔法をあきらめようと思っているんだ」


「……」


「私、あなたみたいに才能ないし、弱い女だから」


「アナスタシア、君は間違いなく魔法の才能にあふれている。けれど、とてもやさしい女の子だから、厳しい魔法の世界で勝ち抜いていくのは難しいかもね」


 クリスの言葉が突き刺さった。

 やはり私、向いてないんだ……。


「でも、俺は君とこれからも一緒に魔法を学んでいきたいな。だから一緒にもう少しがんばってみないか?」


 今の私なら、その言葉を素直に受け取り、がんばれたと思う。

 けれど、当時の私は違った。


「ありがとう。考えてみる」


 そう返事したが、心は決まっていた。


 厳しい魔法の世界で勝ち抜いていけないやさしい女の子、それが私なんだ。


 こうと決めたら鉄砲玉のように進んでしまうのが私の特性。

 次の日、私はそっと、魔法学校に退学届を提出してしまったのだった。


  ※ ※ ※


 魔法。


 ミカエルに婚約を破棄されぼんやりと歩いていると、魔法学校に通っていた当時のことが思い出されてきた。

 私の得意だったこと。

 それは白魔法。

 そして、自分に限界を感じ、簡単にあきらめてしまった世界。

 そして、なぜか今になって後悔している自分がいる。


 教会の広場から、一人とぼとぼと歩いていると、強い風が私の頬を殴るように打ちつけていった。小さな土が風に舞い、私は思わず目を閉じた。


「アナスタシア」


「えっ?」

 どこからか私を呼ぶ声がする。


「やっぱりそうだ。アナスタシアじゃないか」

 男の人の声だった。

 私は声のする方角へ顔を向けた。


 あっ。


「久しぶり、アナスタシア、元気にしてたかい?」


 そこに立っていたのはあの男だった。

 私に魔法をあきらめさせた天才、クリス・リネカーがそこにいたのだ。

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