第33話 解決方法
「これは邪神が封印されている石だ」
ラウルが取り出したものは、布に包まれた物体だった。
邪神…って。
「そんなものをここに持ってきたの?!」
「しっかり封印されているから大丈夫だよ」
いや明らかに魔力が漏れていますけど!
城の中に持ち込まないで!
「それをどうするのだ」
ジェラルド様が尋ねた。
「フローラ様の身代わりです」
「身代わり?」
「この間のクランの件で思いついたんです。他にも封印された邪神があれば、それをフローラ様の代わりにあの森の封印の蓋にすればいいんじゃないかって」
ラウルが布を外すと、中から真っ黒い、丸い石が現れた。
石から漏れる邪気は…確かにあの森の石に似ている…。
「ティーナ達に手伝ってもらって、あの森の邪神の仲間を探してこれを見つけたんです。蓋に使うには十分な魔力があるかと」
「…これがあればフローラの呪いは解けるのか?」
「ええ、理屈上は。実際にやってみないと分かりませんが」
実際に…。
思わず息を飲んだ。
本当に…私の呪いが解けるの…?
「もしも失敗したらどうなる?」
「…フローラ様の呪いが解けず今まで通りか…呪いが解けても再封印に失敗して封印された邪神と魔物が溢れ出すか…」
うん…そうね。魔物が溢れるのは避けたいわ。
失敗する可能性があるのなら…。
「無理して呪いを解かなくても…」
あ。しまった。声に出してしまった。
ごめんなさい二人してそんな目で見ないで!
「…そういう事は言わないでと…」
ごめんなさい、ため息をつかないで!
ラウルを信用していない訳じゃないの!
「———まあ確かに。あの西の森は我がランベールの領地だ。そこに邪神や魔物が放たれる可能性があるのを見過ごす事は…立場上出来ないな」
ジェラルド様が思案しながら口を開いた。
「だからもしも君が失敗したら、君は我が国から追放してフローラは私がもらうよ」
…え…?
「フローラには指一本触れさせないし、二度と会わせない。いいね」
ラウルを見るジェラルド様の表情は…それが本気である事を物語っていた。
「———分かりました」
ラウルは反論する事なく頭を下げた。
「ラウルっ、さっきの…!」
ジェラルド様が本来の目的地へと出発した後…例によって私を抱きしめてキスしようとしてくるラウルの唇を避けようともがいていた。
ここでは止めて欲しいんだけど!いつ誰に見られるか分からないし!
「さっき?」
「失敗したら…というやつ…」
「ああ。失敗しなければいいだけの話でしょ」
そうなんだけど!
「殿下だって失敗して欲しくないから言ったんだし」
…それは私にも分かるけど。
「まあもしも失敗した時は…言った通りになるだろうね」
———あの人は隙あらばフローラ様を奪おうとするから。
私を腕の中に閉じ込めるとため息混じりにラウルは言った。
「ラウルに会えなくなったら…私……」
「悲しい?」
そんなの…悲しいに決まっている。
じわり、と目頭が熱くなってくる。
「———泣かないで」
ラウルのキスが目尻に落ちてくる。
最初は恥ずかしくて仕方なかったその感触も…私を抱きしめる腕も、今では心地良くて落ち着くものになっていた。
もう…私の中でラウルの存在が欠かせないものになっているのに。
「大丈夫。失敗はしないよ。俺を信じて」
「…信じてはいるけど…」
「けど?」
「それでもやっぱり…怖いものは怖いわ」
未来が分からない。
それがこんなに怖いものだとは知らなかった。
「フローラ様は本当に心配性で怖がりだね」
ラウルの手が私の頭を優しく撫でる。
だって…私はラウルやお師匠様のような立派な魔導師にはなれなかった…少し魔法が使えるだけの、何も出来ない子供のままなのだもの。
「大丈夫だから」
それでも…ラウルの腕の中で、優しくそう言われると何だか安心してくる。
「ラウル…ありがとう」
こんな、何も出来ない私のために自分の人生を使ってくれて…。
「どういたしまして。———でも」
「でも?」
「そこはありがとうじゃなくて〝大好き〟って言って欲しいな」
ラウルが私の顔を覗き込む。
「…そんな事言ったら……あなた止まらなくなるじゃない」
「ダメ?」
ダメに決まってるでしょ!まだ私達は…
「公主様にね、早く孫の顔が見たいって言われたんだよね」
———お父様?!
孫って…それって…私とラウルの……あれ…?
「そう…か…」
「フローラ様?」
「私…呪いが解けたら…子供…産んでいいのかな……」
欲しいと思ってはいけないと思っていた。
私には永遠に手に入らないものだと。
「———いいに決まってるだろう」
私を見つめるラウルの瞳はとても優しくて。
「貴女は人間に戻るんだ。人間として、好きな事が出来るし欲しいものも手に入る。俺が全部貴女に与えるから」
「……うん」
頷いた私に落ちる口付けも…とても温かくて。
「ラウル…大好き」
「———俺もだよ」
こういうのが幸せっていうのかな。
ラウルが与えてくれる未来を想像すると、胸が温かくなる気がした。
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