15 目的地まで、ワンクリックでは移動できませんのです
迎に来たノエと一緒に帰る事になった。
医務室の先生に礼を言うと、君は噂と違うようだねと意味深な事を言われたけど、特には聞き返さなかった。
どうせ悪評だ『人の噂ほど不明確な物はありませんよね』とだけ返しておく。
屋敷では一人で歩くのに借りた松葉杖を使い、ひょこひょこと歩く。
着替えもしたいからと寝室へ入り、ベッドの上へ大の字になった。
背中がごわごわする。
「ん?」
私は起き上がり上着を脱ぐ、ベッドの上に薄い本が落ちた。
「うううああああああああああああああっっ!!」
廊下を走る音が続いたかと思うと直ぐに扉がノックされる。
コンコン! バンッ!
「おじょうさま、どうなされましたかっ!?」
ノエが返事もなしに入ってきた。
私は慌てて薄い本を隠していた。
「ご、ごめんなさいね、その、ええっと……虫が居たみたいで。
もう消えたみたい」
ノエはほっとした顔をして、何が御用があればと帰っていく。
「持って帰ってきちゃった……」
思わず小声になる。
しわになっており、インクで書かれた文字が少しにじんでいる。
でもこれは、高レアアイテムの作り方だ。
「どどどどうしよう……」
落ち着くのよ、すっすはー、すっすはー。
深呼吸をして落ち着かせる。
鍵付の引きだしから日記を取り出すと、字を見比べる。やっぱり日本語だ。
会ってみたい。
私以外に異世界転移して、この世界の情報を知っている人。
とりあえず、私はその薄い本を引き出しへとしまった。
◇◇◇
翌日には足首の腫れも引いていた。
何時ものようにノエが作ってくれた朝食を取り、今日の予定を考える。
何をしてもいいというのは、これはこれで不便だなと。
「そうだ、採取に行きましょうっ!」
私がこう叫んでも、反応はない。
ナナの錬金術師でも、採取が基本だったじゃない!
最近では笑顔を見せてくれるようになったノエが頭を下げた。
なお、まだ食事は一緒に取ってくれない。
「しんせいしてきます」
「まったっ!」
「はい、なんでしょうおじょうさま」
「申請って何所に?」
「ようへい所です」
「なんで?」
当たり前の顔をされてしまったけど、私にとって当たり前ではない。
質問をすると、ノエではおじょうさまをお守りできませんと、返って来る。
ああそうか、ようするに、護衛って所だろう。
ナナの錬金術師でも遠くに行く時には、仲間が居たわね。
「採取っても、直ぐそこの草原よ、ひとりでも……」
ノエが困った顔をし始める。
主人の命令は絶対であれ、護衛をつけないわけには行かないと思っているのだろう。
別に私も泣かせたいわけじゃない。
「一応聞くけど、ノエは戦闘経験は? あそこに出るのは、ぽよぽよと旅カラスぐらいな者と思ったんだけど」
「もうしわけありません」
無いわよね。
当然私も無い、この世界の私としても下級モンスターは見たことあっても戦った事は一度も無い。
十二歳で貸し本屋からメイドになったノエに戦闘経験はあるはずもないのは、考えればわかる事だった。ごめんねノエ。
「よし、酒場へ行きましょう」
「さかば……ですか?」
「近所に行くのに傭兵なんて連れて行ったら笑いものになるわよ、それに酒場のほうが低金額で依頼をこなす人間が多いのよ」
ノエは、驚いた顔になり慌てて腰を曲げる。
「もうしわけありませんっ。笑い者になどは……ノエ、おじょうさまの事を何一つ――――むぎゅ」
「はいはい、むしろ考えてくれたからこうなったのよねー」
私はノエに抱きつき背中をさする。
可愛い……。
酒場までは歩いていく事にする。
馬車でもいいけど、私の知っている酒場は貴族の馬車が行くような所じゃない。
ノエは凄い青い顔をしていたけど、最終的には私の命令なので従うしか無かった。
「別に徒歩でもいけるわよ、大げさね」
「そ、そうでしょうか」
「ノエだって普段は護衛も何も居ないで買い物いくでしょ?」
「はい……」
よし、そもそも何所に行くのにも馬車ってのは楽でいいけど、浮いてるのよね。
学園に行くのだって周りは徒歩が多かったわよ。
私の悪評を上げている原因の一つだ。
薄い外衣(がいい)をはおり家を出る。
家から少し離れた所で私は立ち止まった。
「と、いっても道は詳しくないのよね。ノエ酒場熊の手へ案内してくれる?」
「熊の手……ブルックスさんのところですね。わかりひゃっ! あ、あのっ手がっ」
私は手を繋いだだけだ。
「あー迷惑だった? はぐれないようにと思って」
「だ、大丈夫です、何がおころうとも絶対にはなしません」
「いや、危険な時は手離していいから」
ふんすふんす言ってるノエと歩く。
一時間ぐらい歩く、疲れてきたけどノエが元気そうなので私も何も言わない。
何人かの人とすれ違うけど、ほほえましい姉妹にみえるでしょう。
脱、悪役令嬢。
耳を澄ますと私達を見て驚きの声を上げている数人の声が聞こえてくる。
「おい、あれって誘拐か?」
「だよな? 女のほうがいかにも悪人顔だし衛兵に通報するか?」
「違ったらどうする?」
「何、匿名で」
私は大きく吸った空気を声と共にだす。
「だあれが誘拐だっ! 貴族の証だってあるわよっ!」
私は学生書とともに持ち歩いてる金の印鑑を見せ付ける。
成金であるパパが持たせてくれた物だ。
「き、貴族って」
「おい馬鹿、本当なら面倒だし逃げるぞっ!」
す、すみませんーと、男達が逃げていった。
私のやり取りを見ていた野次馬達もそそくさと離れていく。
「おじょうさま……やっぱり馬車で」
少し悲しい顔のノエが私を見上げてくる。
「え、えーっと、ほら道が広くなって歩きやすくなったからいいのよ、ほら案内案内」
「わ……わかりましたっ」
「あ、ついでにちょっと寄りたい所があるんだけど付き合って貰える?」
「はい、よろこんでっ」
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