14 錬金術入門編書と手書きの本

 地下室と言っても、照明はある。

 この世界、電気はまだないが、それに代わるものがちょいちょいある。


 手近にあった、関係ありそうな本を見てみる。


 本のタイトルは偉大なる錬金術師マーリンの調合。

 これはタイトルからも期待できる。

 『千年ゆで卵』の作り方が載っている。亀の卵を蒸留水で煮る。


 これは錬金術と言っていいのだろうかと、疑問になる。


 『天然チーズ』

 ミルクをタルへ流し込み密封し半月地面に埋める。


「うーん……だから錬金術って何よ、料理よねこれもう」


 気づけば溜め息を吐いていた。

 これじゃいくら探しても、良さそうな本は何も見つからない。

 どっと疲れた。


「帰ろう……」


 地下室から外に出ようとした時、私は転んでしまった。

 何冊もの本の山を崩す。

 パタパタと司書のフェル君が一階の階段から顔を出して来た。


「おねーさん大丈夫です!?」

「だ、だいじょいっつ」


 足首を捻った。

 立ち上がろうとするが、痛くて出来ない。

 フェル君が階段をおりて、私を背負う。


「いま、医務室に連れて行きます!」


 足は痛いけど、こんな可愛い子に背負って貰えるなんてお姉ちゃんちょっと嬉しいよ。

 ぎゅっとしがみ付くと、フェル君はその場で倒れた。


「おねーさん、重いです……」


 私は無言でフェル君の頭を叩く。


「女性に重いっていったらだめよ」

「だって本当に……」

「とりあえず、誰か別な人を呼んできて」


 まぁ140センチぐらいの小さな子に、170センチぐらいの私がおぶさったらそうなるわよね。

 私の下からフェル君は這い出ると、直ぐに呼んで来ます! と走っていった。

 一人地下室へと取り残される私。

 足を押さえながら体勢を整える、散らばった本をとりあえず避けると薄い本が出てきた。

 

 薄い本といっても前世的な変な意味ではなく、数ページで作りも雑な本。

 足の痛みは酷いけど、動かさなければ我慢は出来る。

 その薄い本のページをめくった。


 『賢者の石』

 全知のモノリス・始祖の竜の心臓・真実の瞳・天使の輪・虹の石。

 七色の中和剤・日数二ヶ月。


「え……?」


 手書きではあるけど、賢者の石の作り方が載っている。

 もっと問題なのは、その文字が『日本語』で書かれている事。

 別のページをめくる。


 『毛生え薬一号』

 巨大イカの墨・魔法の草・アルタナ湖の水・火打ち石・あとは忘れた。


「居たんだ……」


 居たんだ、私以外にもゲームの知識を持って転生した人が……。


「痛いのか?」

「痛いじゃなくて居たんだって言っうあああああああああああ」

「な、なんだ。騒ぐなっ!!」


 私の横にいつの間にかディーオが立っていた。


「ででで……ディーオっ!」

「先生ぐらいつけろ」

「ディーオ先生っ! なんでここに」

「回りまわってボクに話が来た」

「と、いうと?」


 私はとっさにノートを服の中へと隠した。


「司書が助けを求めて医務室に行った所誰も居なかったらしくな、受付にいったらしいんだが、怪我をしたのが君だとわかって誰も助けに行きたくなかったらしい。

 受付が手が離せないからと、科の担任であるボクの所に来た」

「ああそう……それはどうも……」


 嫌われ度もここまで来ると泣けてくる。

 きっと地震か何かで倒れたら誰も助けに来ないわよね。

 私の背後に回ると、突然に背中と膝裏を腕で持ち上げて来た。

 お姫様抱っこ、で私を抱き上げたまま歩こうとする。


「ちょ、ななななにするのよ」

「何って、医務室に運ぶだけだ」

「に、してもよっ! 肩を貸すだけでいいわよっ、捻ったのは左だけなんだし」


 超至近距離で意見を言うと、ディーオは面倒だといいながら私をお姫様抱っこからゆっくりと立たせた。

 ああもう、はずかしい。

 あんな格好で廊下を運ばれたくない。


 ディーオの肩を借りてひょこひょこと歩く事にした。

 何人もの生徒が、私達を遠まきでみている。

 中にはうっすらと笑う人間さえも見えた。顔覚えたからな! 

 私が睨むと、顔色を変えて顔を背けた。


 医務室へいくと、年老いた医務室の先生とナナが居た。

 ディーオは医務室の先生へと事情を説明し、じゃあなと帰ろうとする。


「ディーオっ! ……先生」

「なんだ」

「その、ありがとうございます」

「仕事だから、気にするな」


 ディーオを見送ると私はナナへと向き直る。


「で。なんでナナが? もしかして……」


 私への恨みで止めを刺しにって…………この子そんな事するような子じゃないわよね。


「ミニボムLV2を売りに来たんです。そしたら受付でエルンさんが怪我をしたとかって話を聞いて」

「ああ、そう。見たとおりの軽いねんざよ」

「よく効く薬があるんです!」


 医務室の先生よりも保管場所を知っているらしく、私に湿布や包帯、飲み薬やよくわからない錠剤などをあれやこれや手渡してくる。


「まったまった」

「はい?」

「気持ちは嬉しいけど、湿布と包帯だけでいいわよ」


 緑色の液体や半透明な青い液体など飲みたくない。

 壁に掛けてあった時計が夕方を知らせた。

 ナナが小さな声を出した。


「どうしたの?」

「あの、いえ、酒場のブルックスさんに頼まれた物が今日まででして……」

「ああ、あの熊親父の」

「知っているんですか!?」

「え、ああ噂よ噂っ」


 危ない、そうまだ会った事すらない。

 ブルックス、酒場『熊の手』のマスターで元冒険者、お金を払って噂話や採取場所を教えてくれる見た目は熊にそっくりであるが趣味がぬいぐるみ集めの人だ。


 錬金術師に依頼もしてくれて、持って行くものによって報酬も変わる。


 さすが主人公、行動が早い。

 十六歳で酒場に行くって中々のもんよ。


「私はいいから、行って来なさい」

「え、だ、大丈夫ですよ一日ぐらい」

「い・き・な・さ・い」

「は、はい!」


 ナナが私の見舞いをしていて、それで納期が遅れたとなると、さらに変な噂も立つでしょう。

 そうね、例えば。

 間に合うはずだったのに、エルンに捕まって納期に間に合わなかったとかね。

 私は走って出て行くナナを医務室から見送った。


 あれ? 何か忘れてるような。

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