121.結果として長引いてしまったわ

 翌朝……と呼ぶには、あまりに陽が高いわ。もうお昼? もしかするとお昼も過ぎたかも。


 ラエルは私の髪を指先に絡めて嬉しそう。昨夜の彼を思い出して、顔が赤くなった。すごく情熱的だったわ。あんなに溶かされて求められたら、心も体もすべて明け渡すしかないもの。


『何か食べる? さっき、寝ている間に蜜をあげたけど』


 口の中がほんのり甘いのは、そのせいね。気遣いが嬉しくて、ぎゅっと抱き着いた。ラエルが一瞬だけ固まるけど、すぐに抱き返してくれる。


「ラエル、やっと私はあなたのお嫁さんになれたわ」


『嫌だと言っても、逃げても掴まえるよ』


「逃げないわよ。ねえ、知ってる? エインズワースにはこんな話があるの。夫に恵まれた幸せな花嫁は、初夜が数日あるんですって」


『僕が知らないと思ってたの? もちろん、最長記録を目指すつもりだから……グレイスは頑張って』


 揶揄うつもりで告げた話は、婚礼前の女性の間で囁かれるもの。素晴らしい夫に抱き潰されて数日は動けない、または何度も抱かれている間に数日経ってしまう。両方の意味があった。こんな話、表ではしないから知らないと思ったのに。


 ころんと転がされ、私の上で微笑むラエル。絶世の美貌が甘い笑みを浮かべると、それだけで負けそう。


『僕の、僕だけのグレイス』


「ふふっ、いいわ。ラエルの気が済むまで付き合うわよ」


 これでも体力には自信があるの。そう豪語して、後悔するのはわかってるけど。後悔させて欲しいわ。だって花嫁なんだから。聖樹ラファエルの巫女にして唯一の妻よ。過去に願って、でも叶わないと泣きながら領地を出たあの日……その記憶を塗り潰して欲しい。


 私の気持ち以上に激しく抱くラエルに縋り、口付けで呼吸を乱して、甘く甲高い声を上げる。それでも足りない。もっと、もっとよ。私が壊れるほど愛して。







「さすがに3日は長過ぎたかしら」


『もう降参かい? 僕はまだ足りないけどね』


「じゃあ、飽きるまで付き合う」


『死ぬまで飽きないから、別の条件にした方がいいよ。一生ベッドで抱き潰しちゃうから』


 普通なら冗談でしょ、と笑える言葉も……ラエル相手だと本当になりそう。慌てて「あと1日だけね」と変更した。不満そうにしながら、『あと3日』と強請られる。間をとって2日が一般的だと思うけど、ラエルの滅多にない我が侭が嬉しくて頷いちゃった。


 結果として4日に伸びて、最終的に一週間籠りっきりだったわ。その間に運ばれた食事を一緒に食べたり、部屋のお風呂に入ったり。ずっと、その……してたわけじゃないけど。顔を出すのが恥ずかしかったのは、仕方ない。


 そっと開いた扉の前にシリルとフィリス、窓側はノエルにパール。聖獣が勢揃いでこの部屋を守ってたのは、驚いたわ。突進してきたお父様やお兄様を追い返してくれたんですって。後でお礼のお菓子を用意させるわね。

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