119.現実は非情だけど、お兄様は頑張ったわ
アマンダは愛用の大剣を運ばせた。というか、あなたはドレス姿よね?
「アマンダ、もしかして」
「せっかくだからな、今から試合をしよう。結婚式の余興だ」
上はビスチェタイプだから、羽織ったショールを外せばいいけど……スカートはどうするのよ。指摘する前に、彼女は短剣を抜いてスカートを膝の位置から縦に切った。ひらひらと裾が風に舞う。
「うそ……」
「メイナード殿、まさか酔ってはおるまい?」
アマンダが男前すぎて、メイナード兄様が食われる予感しかないわ。頷いて、己の剣を鞘から払う。周囲の酔っ払いは、「頑張れ」だの「やっちまえ!」だのと盛り上がり、無責任に囃し立てた。
「ラエル、どうしよう」
『余興にいいと思うけど』
夫は当てにならなかった。お母様を見れば、手を叩いて喜んでる。あっちも無理ね。お父様は「負けたら屋敷に入れない」と宣言する始末。
婚約者候補だったアマンダが、弟に取られそうよ。カーティス兄様を振り返ると、大応援を繰り出していた。
「勝て! メイナード、お前ならイケる!! アマンダ嬢を口説き落とせ」
「……口説き落とす前に、メイナード兄様の手が落ちたらどうするのよ」
さすがに首は狙わないと思うけど。ぼやいた私の言葉を聞き咎め、アマンダが豪快に笑う。
「さすがに切り落とす気はないぞ」
何を? それ以外は何かするのね。いろいろと諦めて、運ばれた椅子に腰掛けた。隣に座るラエルが、金色の果実酒を差し出す。
『林檎のお酒だ。グレイスの好みの味に仕上げたから』
「ありがとう」
まさかの聖樹様自らお酒を作ったなんて。感激しちゃうわ。美しい黄金色は蜜のよう。とろりとしたお酒に口をつけた。ほんのり甘くて、でもさっぱりしてる。これは飲みやすいわ。
『飲み過ぎは止めるからね。何しろ、今夜は僕が君を食べるんだから……酔っていたら味がわからないだろう?』
ちょ、やだ。火照っちゃうじゃない。真っ赤になった私の顔を隠すように、ラエルが私を抱き寄せる。空になったグラスは、慣れた様子で侍女に回収された。
キンッ、金属が当たる音に顔を上げると……すでに戦いが始まっていた。決闘、じゃなくて試合?
大き過ぎて振り回すのがやっと。普通の人なら使わない大剣を、アマンダは軽々と扱う。慣れた様子で力を入れたり抜いたり、メイナード兄様を翻弄していた。足を踏み出すと露わになる膝を見ている間に、決着がついた。
まあ……勝者は火を見るより明らかで。どんなに情熱や意気込みがあっても、実力差は凌駕できないの。根性だけで勝つとか、無理なのよね。こてんぱんに叩きのめされて転がる痣だらけのメイナード兄様は、アマンダに回収された。
大剣を地面に突き立てたアマンダが、メイナード兄様を抱き上げる手は優しくて。ふふっ、尻に敷かれるメイナード兄様の未来が見えた気がしたわ。
――お幸せに。確かにこの結婚式で告白すると、愛が叶うかも知れないわね。
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