107.どちらか、確かめてみるかい?
ラエルの発言に色めきたったのは、父や兄達だった。無性なら、いくら神同然の聖樹様でも妹を嫁に出せない。息巻いて抗議する彼らに、ラエルは笑みを深めた。
『僕は、本来無性が正しいと言っただけ。今の僕がどちらか、確かめてみるかい?』
「どうやって?」
きょとんとした顔で呟いた途端、ラエルの顔が赤くなった。それを見て、お父様やお兄様の顔も赤くなったり、青ざめたり……え、もしかして物理的に確かめるの? つまりそれって、アレに触れて雌雄の確認をするのよね。
自分の大胆すぎる発言に、耳や首がぶわっと熱くなった。頬は言うに及ばず、手や足の先まで赤いと思うわ。恥ずかしすぎて蹲った私に、ラエルが寄り添う形で座り込む。
『今の僕は男だ。君を娶ると決めたからね。その意味で、僕もミカも勝手に分化した亜種なんだ』
そこから語られた内容によれば、世界の様々な事象や自然現象を管理するため蒔かれる聖樹は、すべて「エル」が付く名を授かるらしい。種の段階で名付けは終わっていて、発芽して無性で育つ。発芽条件が悪くて、女性になり引きこもったミカエル。嫁をもらうから男性を選んだラファエル。どちらも聖樹としては亜種だった。
「いいの? それで……その、もう戻れないんでしょう?」
無性に戻ることは出来ないと肯定した後、ラエルは私を助け起こして腰を抱き寄せる。
『僕は選んだんだよ。その決断を悔いることはしない。君を手に入れるためだもの』
ぶーっ、と不満を露わにするお兄様達を睨む。慌てて口を押さえてそっぽを向いた。お父様は諦めたお顔ね。
「私は嬉しいわ。ミカはこれからも少女姿のままかしら」
『ある程度精神的に成長すれば、人化した分身も大きくなると思うけど……あの子次第かな』
話が一段落したところで、卵の入った袋をフィリスの首に巻いた。背中に乗せてもらう予定なの。彼女は背に翼があるから、落ちちゃう心配がなくていいわ。シリルの尻尾も魅力だけど、お尻に結ぶのはおかしいから却下ね。
「あっ! 早く戻らないとお母様に叱られちゃう」
「平気よ、もう伝令が戻ったわ」
パールが途中まで出向いて受け取ったらしい。手紙には「行ったからにはしっかり役目を果たしなさい」と書いてあった。これって聖樹信仰を広めて、ミカの居心地をよくするお仕事でいいかしら。聖樹の巫女だし、施しをする際に「聖樹様への感謝」を唱えるようにしてもらった。
貴族はともかく、平民は聖樹様の存在すら知らなかったみたい。食べ物を育てて与えてくれる存在だと教えたら、すぐにお礼を口にしていた。この国が豊かになれば、ミカを信仰してくれる人が増えそう。
『手が空いた? なら、僕が男かどうか調べてみるのは、どう?』
薄緑の髪の美形に誘われて、私は沸騰しそうな頭で答えを考える。でも何か考える側から溶けていく。だめ、頷いちゃいそう……頷いていいわよね?
「俺が確かめる!」
「グレイスの代わりに手伝おうか」
『嫌だ』
カーティス兄様とメイナード兄様の申し出に、ラエルは心底嫌そうな顔をした。でもお兄様達も負けず劣らず、渋い表情だった。私をダシにして仲がいいのね。
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