99.久しぶりのお客様ですって

 追加支援が決まった話をすると、アマンダは何か考え込んだ。食料や資材の話なら、まだ備蓄があるのに。


「まだ備蓄はいっぱいあるわよ。売上が心配なら、買ってもいいんだけど」


「ああ、そうじゃない。ちょうどいい人材を連れて来たから、今回の支援品を届ける役を任せようかと思って」


 そう言うので、その人達を連れて夕食を一緒に取る約束をした。お母様は予想がついたと微笑んで、ドレスを選び始める。不思議なことに、自分の分だけじゃないの。二着を並べて、とても楽しそう。


「お母様、私は自分のドレスが……」


「わかってるわ。あなたは淡い色のドレスになさい。そうね、ミントやラベンダーがいいかしら」


「え、ええ……」


 妙なことを仰るのね。色の指定をされたのは初めてだわ。ラエルは訳知り顔で笑うだけ。すぐにわかるよ、ってはぐらかされてしまった。


 部屋に戻り、ドレスを当ててみる。淡い色のドレスなら水色も好きなのよね。銀髪と青い瞳だから、似合うけど冷たい感じに仕上がるのが問題なの。お母様の言う通り、ラベンダーかミントにしましょう。


「ラエルはどちらの色が好き?」


『そうだね。ミントは柔らかい感じだけど、きりっとしたグレイスならラベンダーかな』


 今日はラベンダーに決まりね。紫系だから、宝石は……暖かな色がいい。ゴールドのジュエリーで、琥珀なんてどうかしら。並べてみて、指輪はセットから外す。耳飾りが大きめだから、首飾りは小ぶりにして。


 準備を終えて、ラエルの衣装も揃える。カフスボタンを琥珀にするの。お揃いよ。こういうのって、好きな人相手だと本当に楽しいのよね。選んだ服を着こなせる男性なら、さらに嬉しさアップだわ。


 午後はゆったり過ごす。夕食にお客様を招くから、午後のお茶もなしにした。アマンダは黒髪だから赤いドレスとか、大人っぽい色も着こなせるのが羨ましい。可愛いピンクを着ても、引き締めてくれるから黒髪は万能だと思う。でも男装の麗人を気取った普段のスタイルも好き。本当に似合うんだもの。


 今日はお客様が女性なら、エスコートのために男装かしら。


『グレイス、向こうで聖獣が見つかったみたいだよ』


「本当? 良かったわ。無事だったの?」


『特に問題ないね。ただ君の想像とは違うけど』


 変な言い方するのね。気になるけど、窓の外が暗くなってきた。もう着替えないといけない。急いで侍女に手伝ってもらい、ドレスに着替えた。もう装着する鎧くらいの大変さなの。こればっかりは好きになれないわ。


 綺麗に仕上がってしまえばいいんだけど、それまでの時間が苦痛で勿体無いの。コルセットをつけなかったから、今日はデザートまでしっかり食べられる。


『美しい我が婚約者、グレイス――誰より気高い巫女をエスコートする栄誉をいただけますか?』


「聖樹様にそう言っていただけるなんて、幸いだわ」


 微笑んで受けながら、内心で首を傾げた。どこでこんな言い回し覚えて来たのかしら?

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