64.オリファント王国の斜陽
お祖父様から手紙が届いた。マーランド帝国へ使者に立ったユリシーズ叔父様が戻ったの。お迎えに出たお母様が親書を受け取り、裏の封蝋を確認する。間違いなく帝国の紋章だった。
「お疲れになったでしょう、ユリシーズ叔父様」
「それより、知らない間に婚約してた方がびっくりしたよ」
苦笑するユリシーズ叔父様が、肩を竦める。その隣には美しい女性が同行していた。婚約者の侯爵令嬢です。どうやらエインズワース近くに領地をもらうのでしょう。というのも、叔父様は皇位継承権が5位と低いのです。そのため、公爵位をもらって独立する予定でした。
今回の騒動で、お母様の興す公国と帝国の間に領地をもらう約束をしたようです。あら? 変ですね。間にはオリファント王国がありますわ。……お祖父様ったら、王国から領地を削り取る気ですね。
「この国の独立が認められたわ。マーランド帝国の公爵位はユリシーズに譲ります」
お母様が新しい国の王になるのでしょう。エインズワース公国――ようやく独立が確定しました。お父様はフライングで、オリファント王国に建国を宣言したようですけど。
「建国祭だ!」
「「「おう」」」
盛り上がる人々を呆然と見つめます。またお祭りですか? いえ、祝い事が多いのは素晴らしいです。ただ、建国祭って建国後に記念日として制定されるのだと思っていました。
『エインズワースの民は前向きで明るいね』
無邪気に笑うラエルは好意的に捉えているようで、ほっとします。楽観的というか、享楽的というか。我が領民達は働き者なので、遊ぶ時はめいっぱい楽しむのが当たり前でした。
「そうそう。まだ手紙を預かってるよ、グレイス」
「ありがとう、ユリシーズ叔父様」
受け取ったのは、貿易都市ウォレスの紋章が印刷された封筒です。アマンダのようですね。宛先に「グレイスへ」だけの簡単な手紙なので、私的なものでしょう。開いて中を確認すると、後ろからラエルが覗き込みました。
「……お母様、アマンダがこちらに合流したいそうです」
「遊びに来るの? 歓迎しなくちゃね」
微笑む母に、首を横に振る。それから手紙を差し出して目を通してくれるよう頼んだ。
「なぁに? エインズワース公国の爵位を賜りたく……これって、オリファント王国に見切りをつけたのね」
貿易都市ウォレスは、エインズワース領に接する領地だ。こちらに合流するなら、大歓迎だった。
「ふむ。王国はもたぬか」
お父様が渋い顔で呟きました。王妃様はとても良い方で、仲良くしていたフィリップ王子も心配です。今できることはありませんが、助けを求められるかも知れません。王国から貴族が流れ込んでいるため、領地もエインズワースに併合され始めていました。
未来はわからないものです。私はあの国の第一王子の妃になるはずで、婚約破棄され、実家が国から独立しました。私を隣で支えるのは大切な聖樹ラファエルとなり、元婚約者の消息も知りません。
「幸せになりましょうね」
ラエルの顔を見ながらの言葉でしたが、家族や侍従、執事エイドリアンも一緒に頷きました。
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