50.意外とせっかちなのね
父や兄が戻ってきた。知らせを聞いたのは、ラエルの隣に座ってすぐだ。
「本当!?」
『うん、もう領地内に入ったよ。ウォレスを越えたからね』
根から伝わる情報を明かしたラエルに抱き着き、感謝を伝える。そわそわと外を見つめた。その様子に笑ったラエルの指示で、パールが迎えに飛び出す。祝福を与えれば、すぐに帰ってくるだろう。
「ありがとう、ラエル。パールも気を付けてね」
見送りながら手を振る。屋敷の上空で一周回ってから、白いオウムはまっすぐにウォレスへ向かった。街道を通る一行は空から良く見えるだろう。窓際で日向ぼっこしていたフィリスが身を起こし、翼を広げて外へ向かった。
「どうしたの?」
「知らない人間が領地内に入ったの。見てくるわ」
「僕も海の方を見てくるね」
同様に何かを察知したノエルが目を細めた。東へ向かう白狼フィリスが翼を羽ばたかせて飛び、白猫ノエルものそりと空中に足を踏み出す。聖獣は飛べると分かっていても、ちょっと心臓に悪い光景ね。どきっとしたわ。
「二人とも気を付けて」
「すぐ帰るわ」
「まあ、僕に勝てる人間なんていないからさ」
余裕だと笑うノエルが空中を駆けて行く。あっという間に見えなくなった聖獣達を思いながら窓を閉めた。残ったシリルが、大きな狐尻尾をふわりと振る。
「僕達は強いから、心配しなくていいよ」
「そうね。信じてるわ」
シリルの長い鼻を撫でて、ラエルの隣に再び腰を下ろす。南と東から見知らぬ人間と表現したけど、南は海で隣国と直接接していない。東は、王都やウォレスを回り込んだオリファント王国の貴族の可能性があるわね。
「ラエル、これから多くの人が入ってくると思うわ」
『問題ないよ、僕の支配は地下が主流だからね。地上はおまけだ。それに……オリファントだっけ? あの王国もあと数ヵ月で僕の根が届く』
張り巡らせるのはさらに時間が必要だが、太い主要な根を届かせるのは簡単と微笑んだ。元からこの大陸は僕が支配可能な領域なんだよ。そう付け足された事実に目を見開き、私は呟いた。
「そんなに……早いのね」
『実はね、君が戻ってくると聞いた時から迎えのために伸ばしていたんだよ』
秘密を明かすみたいに教えてもらい、それなら納得したと頷く。ウォレスの下を抜けて、街道沿いにまっすぐ伸ばした根は、すでに王都の内側に入り込んだらしい。
「お父様、独立宣言出来たのかしら」
『機嫌よさそうだから成功したんじゃないかな』
聖樹の根って便利なのね。感心したところで、侍女が母からの伝言を伝えた。お茶を一緒にしたい……と。ラエルが頷いたので、腕を組んで部屋を出た。尻尾を振るシリルが先を歩くと、廊下が半分ほど埋まってしまう。ふわふわした尻尾は、見るだけで和むわ。
お茶の用意がされた東屋に入り、腰かけて気づいた。
「カーティス兄様は?」
「あの子は謹慎中よ。大量の書類処理を言いつけたの。妹に対して干渉しすぎだわ」
厳しいお母様の言葉に、状況を理解した。先日のラエルに対する態度が失礼だと判断されたみたい。エインズワース領は巫女である私を通して、聖樹ラエルと繋がっている。大地の神様みたいな存在だもの。叱られて拗ねている兄が反省するといいけど。
「お父様とお兄様が、ウォレスを通過したんですって。ラエルに教えてもらったの」
「あら、よかったわ。戻ったらすぐに婚約を調えましょう」
『シリル、頼めるかい?』
蹲っていた白狐が起き上がり、空に舞い上がる。体と同じくらいありそうな7本の尻尾が見えなくなる頃、ラエルが呟いた。
『連れ帰るようお願いしておいたよ』
婚約を調えると言った途端、祝福を上掛けする方法を選んだラエルに笑ってしまった。聖樹様って気が長い存在だと思っていたのに、意外とせっかちなのね。
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