29.首を刎ねるのはいつでも出来る――SIDEアイヴァン
我が一族最愛の娘であるグレイスを罵るナイジェルの口を、
隣で元側妃キャサリンが騒いでいるが、知ったことか。もう王族ではない上、グレイスを蔑ろにした者共を許すわしではなかった。オリファント王国の王宮まで馬車でゆっくり5日ほどか。急げば3日の距離だが、そこまで無理をする価値はない。
絶縁を突きつけるだけの話だ。何より、この罪人用牢馬車は鉄格子のみで素通しだった。各地で元王族の醜態を知らしめて歩くのにぴったりであろう。今頃頭を抱えて対策を練っているはずの国王ヘイデンを思い浮かべ、にやりと口元が歪む。
「父上、お顔が崩れています」
淡々と指摘する次男は不貞腐れている。気に食わない王族を叩きのめす興奮以上に、ようやく戻ってきた妹と引き離されたことが不満らしい。そんな息子メイナードのやる気を引き出すことにした。
「我らが独立することで、王国はさぞ寂れるであろうな」
「当然です。潤うのは貿易都市ウォレスくらいですか」
「まだ情報収集の途中だが、各貴族家はオリファントからの離脱を考えているようだぞ」
「決断が遅いですね。まあ王族よりマシですが」
雑談を区切り、ここで声を潜めた。
「グレイスに恥をかかせた
「……なるほど、そういうことですか」
わしと同じ悪い笑みをにやりと浮かべた息子が、檻の中で騒ぐキャサリンを睨んだ。怯えたように叫ぶのをやめ、我が子を抱きかかえる。一応母親としての愛情はあるらしい。それが歪で、自己愛の延長であってもないよりマシだった。
「賢い王なら処断し、愚かな王は放置か無関係を装うはず」
「
「せめて
ちょうどいい。メイナードの見せ場を作ってやろう。活躍を土産話に領地に凱旋するぞと伝えたわしに、息子は母親ゆずりの顔を歪めた。美しいジャスミンを怒らせた時を思い出し、ぶるりと身を震わせる。グレイスもそうだが、整った顔が浮かべる怒りはより恐ろしい。
「グレイスから聞いたのですが、聖樹様が王国へ根を伸ばすとか」
「ふむ。聖樹様にしたら、この大陸そのものが己の一部だ。廃墟に咲く薔薇を愛でる日も近いか」
聖獣とは聖樹を守る眷属である。と同時に、聖樹の巫女となる乙女を守る守護獣でもあった。そんな彼らから巫女を引き離し、傷つけて帰したとあれば……聖獣達も聖樹様も手加減する気はない。オリファント王国はその短い歴史の幕を下ろす。未来は確定していた。
「聖樹だか聖獣だか知らないけど! オリファントは滅びないわ! 私の王国だもの」
叫んだキャサリンへ、顔の傷を強調する表情でわしは言い聞かせた。
「黙っておれ、罪人の分際で聖なる方々を口にするでない」
これは脅しではないぞ。巫女であるグレイスに恥をかかせたお前達を、わしも一族の者も決して許さん。今すぐ斬り落としてやりたいが、あの国王を追い詰める札として使ってからだ。それまで命は預けておいてやる。
しっかり脅したことで、ようやく己の立場を理解したのか。失禁した彼女は気絶した。ふむ、臭う罪人と同行するのも気が塞ぐ。後で鉄格子の外から水を掛けて洗い流すとしよう。
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