27.王家の名を騙ったのはあの人達ですね

 貿易都市ウォレスへ納品に向かった祖父と馬車の旅を楽しんでいた幼女は、突然現れた男に「食べ物を出せ」と脅された。王族を名乗った彼が奪おうとしたのは、母が持たせてくれたお弁当だ。大切なご飯を渡したくなくて拒んだ。


 当然だと思うわ。憤慨する私の隣で、家族も顔を青くしている。領地内で起きた思わぬ強盗事件は、そこからさらに酷い状況が語られた。


 孫を守ろうとした祖父は蹴り飛ばされ、御者台から転げ落ちた。泣き喚く彼女も叩かれ、食料はすべて奪われた。硬いパンだが、中に野菜とチーズが挟まってる。本来は炙って食べるのだが、男は文句を言いながらそのまま齧った。そこへ着飾った女性が現れ、同様に食べて吐き出す。


 まるで餌に群がる獣のような姿に驚いた。老人はそこまで語ると、痛めた腰を撫でる。あまりに酷い状況に、強盗を捕獲する許可を求めに来たと言う。お父様がすぐに許可を出し、自衛団に騎士が加わった追跡班が組織された。


 彼らを送り出す直前、さらなる被害報告が届く。同じように王家の紋章を見せつけながら、獲物と弓矢を奪われた猟師が駆け込んだのだ。まだ若い彼は必死に走ったのだろう。馬で移動する距離を一晩で走り切ったらしい。


 疲れた様子の彼に、侍女達が飲み物を運んで来る。ついでに食事も用意させた。襲われた幼女や祖父にも料理を振舞うよう手配する私は、ふと気づいて考え込んだ。


「王家の名を騙ったと聞きましたが……もしかして、あの人達では?」


 王家の名を口にして犯罪を行ったとは思いたくないですが、あの人達なら考えられます。礼儀作法もそっちのけで、自分達の権利ばかり主張するタイプでした。さらにウォレスからこちらへ向かう街道で事件は起き、タイミングとしてもアマンダが彼らを追い払った後のようです。


「わしも間違いないと思うぞ」


「この矢に見覚えはないか?」


 ユリシーズ叔父様が証拠品として持ち帰った矢を、猟師に確認してもらいました。間違いなく自分の矢だと断言します。同時に、狼を狙ったことはないとの証言も取れました。奪った矢で子狼を攻撃し、怒った群れの長も傷つけたなら……何と言う愚かさでしょうか。


「一時でもあんな方々が婚約者だったなんて」


 がくりと崩れそうになり、後ろからシリルが支えます。狐の柔らかな尻尾を撫でたら、少し気持ちが落ち着きました。やはり、もふもふは正義ですね。


「パール、お願いがあるの」


「治すんでしょう? 私に任せてよ」


 自慢の尾羽を揺らす白いオウムは、歌いながら治癒の力を振り撒く。叩かれた幼女の痣、蹴飛ばされた老人の腰、猟師の疲れた体を癒した。きらきらした銀色の光が降り注ぎ、歌が終わると同時に消えます。やはりパールの治癒は一流ですね。ノエルでもいいのですが、彼は歌えませんから。


「いま、僕に対して失礼なこと考えなかった?」


「いいえ、勘違いよ」


 白猫ノエルの呟きに、優雅な笑みを浮かべて否定します。ノエルが歌うと残念なのよね、主にリズムと音程がとんでもなくて。ええ、リズムと音程の両方がおかしいんですもの。

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