23.めいっぱい羽目を外しました
喚く二人が煩いとお兄様達が猿轡を噛ませて牢へ片付けたので、宴会場は再び盛り上がり始めました。私が婚約破棄されて実家に戻ったことを、こんなに喜んでくれる領民がいて嬉しい限りです。色とりどりのランプが風に揺れる広場で、串焼きを頬張りました。
「お嬢様、こっちもどうぞ」
「この果実酒、今年はいい出来だよ」
お礼を言って受け取ります。毒見? そんなもの必要ないので、すべて口を付けていきます。万が一にも我が領民が私を傷つける筈はありませんし、そこまで恨まれたら受け止めるのも領主の役目ですわ。何より聖獣がいますので、食中毒も含めて誰も心配していません。
治癒能力を持つのは、パールとノエル。ノエルはまだお母様の腕で甘えていました。もういっそ、お母様と契約したらいいと思います。拗ねてるわけじゃありません。少し……そう、ちょっとだけムッとしただけですから。
「グレイス、この肉美味しいわよ」
「こっちの豆もお勧めだわ」
私の気分が落ち込んだのを察したようで、フィリスとパールが料理を勧めてくる。すりりと無言で私の手に頭を擦ったのは、白狐のシリルでした。彼らを順番に抱き締めて頬ずりします。一年前の私、どうして王都に行くと決断できたのかしら。
もふもふと離れたことで気分は塞ぐし……好きでもない男のために努力させられて精神的にすり減るし。何もいいことはありませんでした。唯一の慰めは、じいやを独占していたことでしょうか。実の祖父が皇帝陛下なので甘えにくく、じいやが私の祖父代わりでした。
家族から引き離された私を心配し、一緒に王都に来てくれたのは嬉しい限り。あとは悪いことばかりでしたね。心と疲れを癒す聖獣とは離れ離れでした。毎日着飾らないといけないので、コルセットで腰を縛り付けて苦しかった記憶が過ります。新しい国で、淑女のコルセットは廃止すべきと訴えましょう。
あと、もふもふは正義なので国を挙げて愛でる法律とか……そうですね、もふもふ保護令を作ったらいいと思うわ。ふわふわした気持ちで考えている私は、手にしたグラスの中身を一気に飲み干します。すぐに注がれたのは、別のお酒でした。あら、こちらも美味しいです。
「姫様、こちらもどうぞ」
色の違う果実酒に目を細め、ぐいっと煽りました。王宮での宴は常に上品さを心がけ、大人しくしてきましたが……この領地では関係ありません。我が家は民を大切に保護し、民も慕ってくれています。気疲れのない居心地の良い空間に誘われ、ついついお酒を飲みすぎました。
「おや、こんなに酔って。困ったお姫様だ」
私を抱き上げる腕は、どなたでしょう。シリルの毛皮に俯していた私は、掛けられた声にくすくすと笑い出しました。なぜかおかしくて止まりません。思ったより酔っていたみたいです。
「ユリシーズぅ、叔父様、ね? うふふ」
舌ったらずに呼びかけた私の額に音を立ててキスが降りました。
「そうだよ、もう帰ろうか」
「嫌ですぅ、まだ飲むんです、から」
上で何か相談している兄や父の声を聞きながら、私は目を閉じた。着飾った叔父様の勲章かしら? 冷たいブローチのような感触に頬を擦り寄せ、深く息を吐き出した。
ゆらりゆらりと心地よい揺れに誘われた私はベッドの上に下ろされるまで、かろうじて起きていた。本当にぎりぎりだけど。頬に感じたキスと、ベッドに潜り込んできた聖獣達の柔らかさに、今度こそ意識を手放した。おやすみなさい。次の宴では朝まで起きていたいわ。
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