【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
01.婚約破棄、爵位剥奪、国外追放ですか?
豪華なシャンデリア輝く広間で、私はこてりと首を傾げた。しゃらんと髪飾りが音を立てる。一級品のお飾りは、首飾りや耳飾りまでセットでオーダーした父の愛情の塊。重いけれど大切な誇りです。
国内唯一の公爵家の令嬢として、場に相応しい振る舞いをして見せましょう。
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建前を間違えました。でも構わないでしょう。別に、この男と結婚したかったわけでもありませんし。領地に籠もって自由に過ごしたい私にとって、今後の縁談が来ない方が助かりますわ。
周囲の貴族の顔が引き攣ったのを横目に、広げた扇で目から下を隠します。困りましたね、今日はお父様やお兄様もおられないのに。だからこそ、この夜会で言い出したのでしょうが、軽く国が滅びますわよ?
「それが王族に対する態度か!」
「何かお気に障りまして?」
愛らしく問い返す私に、周囲が騒めきます。ちらりと視線を送った先の貴族達は、先程の言い間違えを無かったことにしました。
「気のせいだったか」
「空耳だな」
「王子殿下の愚行に気が動転してしまった」
などと好き勝手に理由をつけていますが、賢い判断です。この王子に味方しても、暗雲立ち込める未来しか見えませんもの。
伯爵家以上が招かれた夜会で、国王夫妻がおいでになる前に、婚約者であるエインズワース公爵令嬢グレイスに婚約破棄を突きつけたのですから。それも隣に見覚えのない女を2人も侍らせて。貴族令嬢ではないのかしら。胸元や足を大胆に見せるデザインの布を纏っているけれど、間違ってもドレスではないわ。だって夜会の基準を満たしていないもの。
「なんてお気の毒なのかしら」
「でもあの王子殿下と別れられるなら、それも幸いですわ」
「いくら地位と顔が良くても、
あら、一部の奥方や御令嬢の間ではすでに噂でしたのね。事情をご存じの女性は顔を顰めて、扇の陰でひそひそと言葉を発します。扇の裏の会話は、聞かなかったことにするのが夜会の礼儀ですもの。失言も無かったことになりますわ。こういうところが貴族社会の恐ろしいところです。
悪口や噂は足を引っ張るのに、どうしても噂の好きな方はおられて。あっという間に広まってしまうのですから。うまく噂を操るあちらのアップルヤード侯爵夫人は、情報通としてお茶会でも人気の方です。私の叔母さまですけれど。
「浮気が過ぎて、下が緩いと噂の王子殿下に咎められる理由なんて。私、何ひとつ思い当たりませんわ」
きっちりと原因を突きつける。両手に花という言葉はございますが、両腕に虫を這わせた殿方に何を言えばいいのでしょう。怒りで
もう外聞を気にする必要もなくなりました。この第一王子殿下の後始末も最後ですわ。
「貴様など爵位剥奪の上、国外追放にしてくれる!」
最高の褒美ですね。心から感謝申し上げます。
「ふふっ、ありがとうございます。ではご機嫌よう」
優雅に一礼し、くるりと背を向ける。護衛の騎士がさっと後ろについた。彼らは王子を睨んでから、踵を鳴らして儀礼的に会釈する。騎士として一番軽い礼でした。最低限、礼だけはしたと言い訳できる程度。彼らがいれば、後ろから切り付けられる心配はありません。
堂々と王宮の夜会用の広間を出た私は、騎士や侍女に指示を出します。それからドレスの裾を気にしながら馬車を通り過ぎ、馬の鞍に跨りました。心配は不要ですわ。こんなこともあろうかと、下に乗馬パンツを穿いておりましたの。淑女たるもの、どんな時も準備を怠ってはいけません。慣れた所作で愛馬の首を叩き、走り出しました。
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