楽園の天使
飛永ハヅム
1
時は現代、日本のどこにでもありそうな小都市。都市の大動脈の一つである大通りは仕事や用事を済ませて家路を急ぐ人や車であふれ、日中よりも賑やかだ。
時刻はまもなく夜に差し掛かっていた。太陽は傾き、温かい色をした光で街を照らしている。そんな小都市の大通りより一本奥に入った路地では、今まさに一つの事件が起きていた。
日が沈みかけていてわずかに薄暗い路地で、へたり込んで泣いている女子高校生を背後にかばうように一人の男子高校生が立っている。
“
その綺麗に整った顔に怒りをにじませながら、
自分よりも大柄な体格をした男に怯むことなく真っ向から睨み付け、堂々と男の前に立ちふさがっているのだ。
「なんのつもりだ?」
「それはこっちのセリフかな」
「あ?」
「女の子が嫌がって泣いているのを、見て見ぬふりは出来なくてね」
「おいおい、ここまで来たのは同意の上だぜ? そもそも誘ってきたのはそいつだ」
不機嫌さ丸出しな男の問いに
(仕方がないなぁ)
視線を前に戻した
「先に色目を使ってきたのはそいつだ。俺ははめられたんだ!」
震えて泣き続けている女子高校生と、被害者は自分だと訴える男。この状況だけでは警察でも判断がつかなかっただろう。決定的な目撃者でもいなければ。
不快そうに目付きをさらに鋭くして眉間にしわを寄せた
「嘘はいけないなぁ」
「なんだと?」
「お前がこの子の肩に腕を回して無理矢理連れ込むのを見てたものでね」
「ちっ。ナンパしちゃいけないってのか?」
「ついに本性を現したか」
実際に現場を目撃されていたと知って舌打ちをして開き直る男に、
「こんなにも女の子を泣かすなんて、本当に最低な奴だな。そんな奴は男とは呼べない。男ってやつはな、分け隔てなくいつだって女の子に温かい心を込めて優しく手を差し出すべきものなんだよ。それがよりにもよって女の子を泣かすとは、神が許しても俺が許さない」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
唐突に熱弁を振るい始めたどこかずれた
「全く、人の忠告が素直に聞けないとは本当に愚かだね」
「くそっ、離せ!!」
男が暴れて
「……女の子には優しくってのが男の鉄則だけど、愚かな男に実力で地獄を見せるのも真の男の役目なんだよ」
呆れ混じりにため息を一つ吐いた
パリッという軽い静電気のような音を立てて右手を握りこむと、男の肩にいるトカゲ目掛けて勢い良く拳を振り抜いた。
念の為、動かなくなった男が呼吸をしていることだけ確認した
「大丈夫? 怪我は無さそうだけど、立てる?」
「平気、です」
背後にかばっていた涙目の女子高校生の前で道路に片膝をつくと、優しく笑いかけながら
「それは良かった。よければこれから一緒にデートなんて――」
~~♪ ~~~♪
嬉しそうに話しかける
止まることなく鳴り続ける音の発生源に心当たりのある
表示されている名前を確認した
(このまま切ってやろうか……)
そんなことを思いながらもしぶしぶスマートフォンの通話ボタンを押す。
「は~ぁ。何?」
あからさまなため息と共に嫌そうに
しかし相手は特にそれを気にした素振りもなく淡々と連絡事項を口にしていく。
『次の行き先が決まりました。それと雑魚を倒すのは構いませんが、あまりやり過ぎないようにお願いします』
「了解。さぁて、次の場所にもさっきみたいな可愛い子がいるといいなぁ」
最初こそ不機嫌極まりないといった感じの
なおもナンパ男は道路上に倒れたままだ。
(まぁ、放っておいて大丈夫だろう)
そう判断して、
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