第6話 雪の精霊たち
アルヴィンの言葉に、シロが嬉しそうにブンブンと尻尾を振り回す。
「ハイッ! こちらがわたくしめの本当の姿になりますが、やはりアルヴィン殿下には見えているのですね!? なんとも不思議な!」
「シロも雪の精霊なのか? ずいぶん姿が違うが」
アルヴィンがシマエナガたちを見ながら言うと、シロはヒクヒクと鼻先を動かし、得意げに答えた。
「一口に雪の精霊と申しましても、格が変われば姿や能力も変わるのです。わたくしめはあやつらよりちょっぴり格上でして、変化の術も使えます! ですので姫さまの手となり足となり活躍させて頂いております次第でッ!」
「鏡が割れてしまったから、急遽シロがきてくれたの。しっかり者だからとても助かっているわ」
言いながら、エマが小さな白い
「アアッ! ひ、姫さま、とても嬉しいのですがここでは……! わたくしめ、我慢できずに溶けてしまいますぅう……」
言いながら、オコジョはとろけた顔をエマの指に押し付けてくる。それに釣られるようにシマエナガたちが群がってきた。
『姫さま僕も!』
『アタシも頭カリカリしてー!』
『ぼくもぼくも〜ぷぷぷ~』
「順番にしてあげるから待っていてね。紹介が遅くなったけれど、シマエナガたちにも名前があるんです。羽の付け根の色がみんな少しずつ違うでしょう。正義感が強くて優しいのがアオで、気が強くておしゃまなのがアカ。のんびりものの笑い上戸がキイロです」
「シマエナガ? てっきり“エナガ”だと思っていたのだが」
「そういう呼び方もありますが、わたくしの国ではシマエナガと呼びます」
順番に頭の上やら顎の下やらをカリカリしながら、エマが穏やかな顔で言った。
ずっとエマの無表情か、あるいは怒った顔しか見たことのなかったアルヴィンがこくりと息を呑む。その瞬間、うっとりとしていたはずのシロがカッと目を見開いた。
「アッ! そう言うところですよ姫さま! そうやってまた隙を見せて! だから皆さまたぶらかされてしまうんです〜!」
「えっ? どういうこと?」
わけがわからず、エマの表情が険しくなる。シロがピンと背筋を伸ばした。
「姫さまは無自覚かもしれませんが、散々綺麗なお顔で見つめられた挙句、ふとした瞬間にそんな表情を見せられたら……“ぎゃっぷ”というものにやられてしまうのが殿方なのですよ!」
「そんなことで?」
解せない、と言うようにエマが顔をしかめる。
「人の心なんてそんなものです! 目が合あった、手が触れた、たったそれだけで人は恋に落ちるのですッ!」
小さな拳を握り、唾を飛ばしながら豪語するシロに、意外なことにアルヴィンが同意した。
「わかるな、それ」
「さすがアルヴィン殿下、話がわかる! そう、彼らは『氷のような美貌を持つ悪女が見ている……だがオレは騙されない!』と思っていても、いざ姫さまの可憐な笑みを目撃してしまった日には、居ても立っても居られなくなるのです! そうですよね? アルヴィンさまッ!」
芝居がかった動きで、テンション高く殿方の気持ちとやらを再現してみせるシロに、エマはドン引く一方だ。
たが驚いたことに、アルヴィンはまたもやうなずいた。
「いるだろうな、そういう人。行きすぎて、中には婚約破棄までしてしまったと」
「なんてったって、姫さまの美しさは格別ですからね! そんじょそこらの令嬢など、太刀打ちできませんよ」
ドヤッと言わんばかりの表情で、親バカならぬ姫バカを発揮し始めたシロの口を、エマは恥ずかしさのあまり塞ぎたくなった。
それをこらえ、むっつりともらす。
「やはり、わたくしが招いたことなのですね……。考えが足りませんでした。けれど、アリシアさまに対する嫌がらせは本当に事実無根なんです」
「それは人気に嫉妬したか、あるいは恨みを持っているか……どのみち、君を陥れたい人物がいるのは事実のようだ」
アルヴィンの言葉にエマが不安そうに眉を下げる。
「困りました……。まだ何も外交戦術とやらを学べていませんし、鏡の破片も回収できていないのに、このままわたくしは断罪されてしまうのでしょうか」
「ああなんという! 姫さまおいたわしやッ! いざという時は全部氷漬けにして逃げちゃいましょうねッ!」
さらりと恐ろしいことを言いながらしがみついてきたオコジョを、エマが抱きとめる。シマエナガたちが両肩に留まり、それぞれ慰めるようにもふっと体を押し付けた。
その様子を見ながらアルヴィンが目を細め、ゆったりとした口調で言う。
「……それなら俺が協力しようか。鏡の破片と、お前を陥れようとしている犯人を探して潔白を証明しよう」
「あなたが助けてくれるのですか?」
「さすがアルヴィン殿下! ヨッ! 男の中の男ッ!」
はやし立てるシロに、アルヴィンが首をすくめる。
「そんなかっこいいものじゃない。引き換えに、俺の望みを叶えて欲しいだけだ」
「あなたの望み?」
エマが怪しむ目で見た。
アルヴィンの望みとは一体何なのか、まるで想像がつかない。オコジョやシマエナガたちも同じ気持ちらしく、彼が何を言い出すのか、丸い目をさらにまん丸にして待っている。
「単純なことだよ。さっきお前は婿を探しに来たと言っていただろう? その婿に俺を選んで欲しい。つまり――俺と結婚して欲しいんだ」
ご自慢の王子用営業スマイルを浮かべながら、アルヴィンは大したことないとばかりににっこり笑った。
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