お詫びのキス

 慎重に進んでいく戦い。

 地味にライフを削り合い、お互いに後がなくなってきた。


「早くも勝負がつきそうですね、会長」

「ええ。ですが、こちらは二体の魔法使い族モンスターが召喚されています。対して、神白くんはレベルの低いモンスターと伏せカードが二枚」


 当たり前だけど会長は、速攻魔法カウンタートラップを警戒しているようだな。もちろん、トラップはあった。あったが……意味のないカード・・・・・・・・だった。つまり、ブラフで置いていただけだった。


「さあ、どうします? 攻撃しますか」

「じゃあ、攻撃しますね。これでもし通れば、神白くんのライフはゼロ。私の勝ちですね」


 攻撃宣言をする会長。

 これで俺は負けだ。


「負けました。会長の勝ちですね。さあ、なんでも命令して下さい」


「まずは、一緒に遊んでくれてありがとうございます。……さて、用件はひとつ。まず、このチケットでリアちゃんと映画は行って下さい。その後に私とSF映画に行って欲しいです」


 はい、とチケットを更に取り出す会長。

 それはSF映画ではなく……『ゾンビ映画』だった。リアは、そういうゾンビとかの方が好きらしいから丁度いいかも。


「良いんですか?」

「受け取って下さい。その代わり二番目で良いのでお願いします」


 そこまで言われちゃ断れない。

 ……それに、順位は関係ない。

 俺は、比屋定先輩と行きたいんだ。


「土曜日に行きましょう。会長が一番目です」

「気にしなくてもいいのに」

「そもそも誕生日プレゼントをくれたのは会長ですよ。まあ……その、デートしましょうよ」

「…………うん」


 表情の変化にとぼしいはずの会長は、顔をらし、背を向けた。……ま、まさか照れいるのか。


「朝10時、舞阪駅集合で」

「わ、分かりました。その、神白くん……約束、ですよ」

「ええ、必ず向かいます」


 約束を交わし、その後は雑談やら他愛のない話を続けた。そうしていれば、あっと言う間に放課後。


「会長、俺はリアを迎えに行って、そのまま帰りますね」

「了解です。また明日」


 手を振って別れ、俺は教室を目指した。



 ◆



 数時間振りの教室へ向かうと、ただひとりリアの姿があった。


「た、ただいま」

「大二郎、おかえり」


 特に思い悩んでいるというわけでもないのか。良かった……普段通りのリアだ。


「帰宅部を適当にやった後、帰るか」

「ねえ、生徒会長スズさんと何を話していたの?」

「……ぐっ。いや、そのただの雑談だよ」

「授業サボって? ちょっとおかしいよね」


 まずい、問い詰められつつある。このロシアっ子特有の威圧感、パネェ。だが、俺には必殺のアイテム・・・・・・・があった。まさに切り札、これを使う!


「まて、リア。生徒会長から、これを貰ったんだよ」


 ジャ~ンと『ゾンビ映画』のチケットを見せつけた。


「ん? 映画のチケット……って、まさか会長から誘われたの!?」

「いや、これは俺とリアの分。一緒にどうぞってさ」

「……そ、そうなんだ。良かった……」


 胸をで下ろすリアは、安堵あんどさえしていた。いろいろと誤解されるだろうとは思っていたけど、リアの分があったのがこうそうした。ナイスだ、会長!!


「だからさ、今週の日曜日に見に行こうぜ」

「土曜日じゃなくて?」

「すまん、土曜日は用事が出来ちまった。だから、日曜日」

「そっか。うん、分かった♪ 大二郎、疑ってごめんね。お詫びに~…んっ♡」


 ようやく機嫌を取り戻したリアは、三回ほど俺の唇にキスを繰り返した。多分、今まで離れていた分という事だろうか。


 なんであれ、助かったな。

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