奇跡と偶然の万舟券

 出来る限りの情報収集に努め、三連単ボックスの予想にした。合計三千円分の仮想的かつ脳内的通貨で購入した事にした。本当に買っていたら、俺にとっては大金だな。しばらくするとリアも戻って来た。


「おかえり。ん、どうした疲れた顔して」

「それがね、男性に話しかけられて大変だったの。一人になるものじゃないわね。でも、全部ロシア語で対応したら困った顔して帰ってくれた」


 どうやらナンパされまくったらしい。

 そりゃまあ、こんな銀髪ワンピースの激カワ美少女がひとりで歩いていたら何事かと思うだろうな。そうか、こういう時のロシア語だな。

 

「で、何か予想できたか?」

「うん、大二郎も?」

「おう、俺は三連単のボックスの予想」

「わたしと同じね!」


 ぴらっとマークシートを見せるリア。

 ちゃんとガチ予想だな。

 へぇ、どこかでデータ収集でもしたかな。


 感心していると、ファンファーレが鳴り始めた。レースが始まる、急いで観戦しに行こうとすると、リアとぶつかった。


「おっと、すまん。ケガはないか?」

「ううん、いいの」


 なんだか満足気にリアは腕組みする。

 これじゃあ、まるで恋人同士じゃないか。


「リア……」

「ここ日陰で暑くないし、いいでしょ?」

「お、おう」


 観戦席へ向かえば、ちょうどボートが周回を始めていた。コースはプールのように穏やかで波は少ない。そんな中を爆走するボート。


「おぉ、やっぱり一号艇か」


 大体、一号艇が有利だからトップを立つ。このままなら、いつも通りの結果になりそうだな。見守っていると、大体の客も察して静かになっていたが――だが、急に異一号艇の動きが怪しくなり……転覆。


「ええッ!?」

「お、大二郎。これって」

「……ああ、これは終わったな」


 固い所がくると思っていたのにな。

 まさかの転覆で大荒れ。

 あぁ、三千円がパーだ。



 ――結果、俺は敗北。

 リアも自己申告だが、敗北したという。



「二人ともダメだったな」

「うん。でも、楽しめたしいいんじゃない」

「そうだな。じゃあ、換金する呈で行くか」



 自動発払機へ向かい、爺ちゃんと婆ちゃんを見守った。



『――払戻一枚、支払金額:773,000円』



 ガガガ……と、機械音がけたたましい音を上げる。……へ? なんでそんな音がするのかな。――って、待て。



「払戻が773,000円!?」

「えっ……大二郎。あれって当たっていたの!?」

「……ら、らしいな。でも、俺は固いところしか狙っていなかったぞ。という事は、リアが万舟券まんしゅうけんだったんじゃないのか」


 そうとしか思えない。

 レース開始前、リアはどこかへ行っていたし、ガチ予想だったんだな。でも、転覆まで読むとか凄すぎるだろう。というか、当たった事自体が奇跡だ。本当に、どんな予想をしたのやらな。


「わたしだったんだ!」


 マークシートを見る。

 その払戻は『773,000円』だった。

 予想が当たるとは……

 なんという奇跡と偶然。


「リア……」

「わたし、勝利の女神だったみたいね」


 にまっと笑うリア。


「でもさ――」

「じゃあ、二人の勝利にしようか。それなら納得してくれる?」

「リアには敵わんな。じゃあ、そういう事にしておくか」


 素直に納得すると、リアは俺の唇にキスをしてきた。……まったく、このキス魔め。このロシアっ子は、どこまで俺を幸せにしてくれるんだ。


 ああ――もう、最高に幸せすぎて頭がどうかなりそうだ。

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