愛人契約してよ

 ボートレースで大勝してしまった。

 約80万円もの大金を手に入れ、俺は手がブルブル震えた。とはいえ、実際に勝ったのはリアの婆ちゃんだ。おこづかい・・・・・として30万円ずつ貰った。俺とリアにそれぞれである。さすがの大金、誰かに狙われそうでビビっていた。ちなみに、残りの10万ずつは爺ちゃんと婆ちゃんの懐に入った。


「と、とりあえず……60万円を封筒に入れてっと……! なんだこの札束のおこづかい。ありえねー!!」

「落としちゃだめだよ、大二郎」

「お、おう。任せろ」


 会場を後にして、俺たちは出入口を目指すのだが――その帰り道でメイド服に身を包む少女が向かって来ていた。なんだ、コスプレか?


 その顔をよく見ると――


「「え……」」


 俺もそいつも目を合わせてしまう。

 見知った顔じゃん。


「あれぇ! 大二郎くんとリアちゃんなんでボートレース場にいるの~?」


 なんと風紀委員長の『五乙女そうとめ あずさ』だった。ミニスカメイドだった。というか、こんな場所にメイドさんとか目立ちすぎだろう。


「それはこっちのセリフだ、五乙女そうとめ。そんなコスプレで何してるんだ」

「何って売店のバイト。このカッコの方が受けるからさ~」

「そんなバイトをしていたのかよ。にしても……スカート短すぎるだろう」


 ジッと観察していると、リアが俺の目を手で隠す。


「見ちゃダメ」

「……そうか、すまん」


「あはは、二人とも夫婦のように仲いいね。で、今日は大二郎くんもリアちゃんもレースは勝った?」


「あ、ああ……約80万円ほどな。実際は60万円だけど」

「へ……は、はちじゅうまん!?」


 驚くべき金額を聞いて、五乙女そうとめはぷるぷる震えはじめた。そうだよな、学生がこんな金額を持っているとか普通じゃない。死体洗いのアルバイトでもしないと手に入らない金額だろうな。と、言っても死体洗いは都市伝説だが。


「俺たちは予想しただけなんだが、結果的には万舟券をゲットした」

「すご……! 大二郎くんって凄いね……わぁ、あやかりたい。ねえ、大二郎くん、あたしと愛人契約してよ!」


「ブッ! 馬鹿、こんな所で愛人とか叫ぶなよ」

「ああ、ごめんごめん。まあ冗談だけどね! それじゃ、あたしは着替えに行くから、また来週~」


 ブンブンと元気よく手を振って行ってしまう五乙女そうとめ。――なんだ、冗談か。メイド服の五乙女そうとめからそう言われると、それっぽい感じに聞こえるから不思議だ。


「俺達も帰るか」

「うん。でも愛人契約はダメだよ」

「わ、分かってるって」



 ◆



 新居駅前にある『うなぎ屋』に入った。

 今回勝利した金でさっそく贅沢というわけだ。


 さくっと注文して、ニ十分ほどしてテーブルに来た。出来立てのうな重が黄金の光を放つ。うなぎのタレが香ばしくて美味そうだ。


「これがうなぎ。すっごく美味しそうね」

「ああ、美味いぞ。絶対に美味い」


「「いただきま~す」」


 さっそくはしをつけ、うなぎを丁寧に味わう。

 カリモフっとした食感と秘伝のタレの風味が口内に広がる。なんて絶品。美味すぎて涙が出る。それはリアも同様だった。ロシア人の口にも合うんだな。


「美味しい! うなぎってこんなに美味しんだ」


 もうはしは止まらなかった。

 リアは上品に味わいながらも、うなぎとりことなって後半はかっこんでいた。そうして、見事にうなぎを平らげ、満足そうに箸を置いた。


 俺も続いて完食。


 さっそく12,000円の支払いとなったが、まだまだ余裕。うなぎって高いけど、美味しかったなぁ。また勝ったら寄りたいな。



 支払いを済ませた後、そのまま新居駅へ。辺りはすっかり暗くなって夜だ。



 その道中、リアはある方向を指さしてこう言った。


「ねえ、大二郎。あのホテル、寄ってく?」

「あのホテルぅ?」


 なんだかお城っぽくも怪しいLEDの光を輝かせるホテルがあった。――って、ラブホじゃねーか!!

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