おやすみのキス♡

 食事を済ませ、片付けも終える。


「ふぅ、食った食った」


「美味しかったね、蒙古もうこタンメン。あと、トルティーヤも意外な味付けだったな~。ちょっとピリ辛なのが高得点。また食べたいな」


「ほう、リアは蒙古もうこタンメンが気に入ったようだな。あれでいいならお安い御用だよ。コスパ良いし」

「うん。――ところでさ、明日は土曜日だよね」


「休みだな。明日こそは部屋を片付ける。ほら、まだダンボールがいくつか残っているだろ」


 ダイニングキッチンの片隅には、いくつか未整理品が残っていた。それは俺もだが、リアも結構残っていた。


「だよねえ、分かったよ。じゃあ、終わったら出掛ける? ほら、わたしってまだこの周辺の事ってよく分かっていないしさ」

「うむ。確かに近所を知っておい損はないし、迷子になられても困るしな。分かったよ、案内する」


「やった! 楽しみにしているね」

「おう。それじゃ、俺は“仕事”が残っているから」

「えー、仕事!? 今夜はわたしとホラー映画見ようよ~…」


 リアは、俺の服を引っ張る。

 そんな子供のような目をされてもなぁ……でも、リアと映画鑑賞か。それも悪くないな。しかし、このアパートを維持する為なのだ。俺は心を鬼にする。


 事情を説明すると、リアは渋々納得してくれた。ラインくらいはすると約束を取り付け、各々部屋へ。


 ダイニングキッチンの南側。


 右の引き戸が俺の部屋。

 左がリアの部屋となっていた。

 まだほとんど整理していないから、まるでミニマリストのような様相ようそうだが、これはこれで開放感があって良い気も……いや、不便だ。


 みかん箱の上で仕事はツライ。



 ◆



 古岩井コーヒーを飲みながら、カタカタとキーを打ち込んでいく。画面にはびっしりソースコード。指示された通りに仕事をこなしていくのだが、集中していれば意外とはかどっていた。あれから二時間。もう終わりも近い。


『ピコッ』


 リアからのメッセージだ。

 約束はしているし、無碍むげにはしない。


「どれどれ」


 ラインの画面を見ると、そこには“ぴえん”の絵文字だけがあった。さびしさをアピールしているようだが、そうだな、もう時間も深夜零時。おやすみの挨拶あいさつくらいは済ませてもいいだろう。


 俺は、リアの部屋の前へ向かい、ノック。するとドタドタしながらもリアが戸を開けた。


「大二郎! 終わった!?」

「あ、ああ……案外元気そうだな。って、泣いてるし」

「ひ、ひとりでホラー映画見ていたの。仮面を被った男のヤツ。めっちゃ怖かった! ひとりで見るものじゃないね……」


 よほど怖かったらしい、リアはぷるぷる震えていた。というか、いつの間にか可愛らしい寝間着姿だし。


「また今度一緒に見よう。じゃあ、おやすみ」

「……まって」

「ん?」


 細い腕が俺の首筋を回る。

 抱き寄せられた俺は、唇を塞がれた。

 重なるだけのキスだったけれど、確かな感情がもっていたように思える。……ああ、これはいわゆる“おやすみのキス”か。

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