歓迎会

「どういう風の吹き回しだ、教えてくれ」


 俺は意味有り気に微笑む会長にたずねる。


「この時期の編入生は珍しいですし、異文化交流も必要なコミュニケーションですよ。これは校長先生の指示でして」


 なるほど、実に単純明快な……って、校長かよ。まあ、確かにロシア人は珍しい。多分、この学園にもリア一人しかいないだろうし、大切に扱われているという証拠だろうか。それなら、俺としても歓迎だ。


「分かった。このお昼休みでリアの簡単な歓迎会をしますか」

「やった! 嬉しいな。大二郎、あずさちゃん、スズさん、ありがとー!」


 テーブルの上には豪華な弁当があった。

 高級和食店で注文したようなヒレカツ弁当だった。今頃食堂で焼きそばパンの争奪戦を繰り広げている生徒達が見たら血涙を流しそうな贅沢だぞ、これ。


 リアと共に席に着く。


「では、リディアさんを歓迎しまして――乾杯」


 あずさが乾杯の挨拶を簡単に口にする。

 俺達も合わせて乾杯する。

 と、言っても“水”なんだけどな。


 割箸を取り、丁寧に割ってそのまま黄金の衣をまとうヒレカツを箸で挟み込む。その時点で、サクッとした感触が腕から脳まで伝わってきた。


「おぉ……」

「これがヒレカツ。美味しそう~! ねえ、これこのまま食べればいいの?」

「最初はそのまま戴くのがいいかもな。特製ソースもあるけど」

「分かった。……もぐもぐ」


 ヒレカツを味わっているのだろう、リアは衝撃を受けているようだった。飲み込むと同時に瞳をキラッキラ輝かせ、感激した。


「あら、気に入って戴けたようですね。お口に合って良かったです」


 どうやらこのヒレカツ弁当は、会長が買ってきたものらしいな。どこのお店か知らんけど、ヒレカツの脂はしつこすぎず、あっさりで美味。


「大二郎くん、あたしが“あ~ん”してあげよっか?」


五乙女そうとめよ。お前って風紀委員長なのにオタクに優しい系ギャルだよな。こんなフィフティ・フィフティ陰キャ……略してFF陰キャの俺にそんな女神的行為をしてくれるとか」


「FF陰キャって、初めて聞いた。それ普通に半分でいいんじゃ? ていうか、大二郎くんはそういうタイプじゃないよね。普通っていうか……リアちゃんと凄く仲良さそうだし、彼女なの?」


 そういうタイプなんだなこれが。

 普通にFPSとかゲームもするし、漫画やラノベだって読む。割とオタク寄りではあると思うけどな。どうやら、見た目のせいかあんまりそういうイメージは持たれないようだ。


「……って、リアが彼女!?」

「だって、朝一緒に登校していたじゃない」

「あ、ああー…偶然な」


 そういえば、同棲の話はしていなかった。チラッとリアを見ると――


「はい、大二郎。あ~ん」


 俺の口元に食べかけ・・・・のヒレカツがあった。誤魔化すようにそれを戴いた――のだが。



 五乙女そうとめも会長も固まっていた。



 ……しまった、つい!

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