第5話 幹部会議(2)

 薄暗い室内の長いテーブル。


 その一卓で静かな怒気が籠った二人の視線が一人に向けられている。


 しかし、視線を受けているて当人である作戦参謀役 【グラキルス】は、変わらず涼しげな表情のままであった。


「ふぅ…。 いいですか、二人とも。」


 会議開始から何度目かの眼鏡クイッをしつつ、視線を向けるくる二人、【フレイムル】と【イザベラ】に対し面倒くさそうに話すグラキルス。


「今、私達は戦争の真っ只中。 効率よく勝つためには、時に犠牲を払わなければなりません。 少ない犠牲で大きな成果を出す、これは重要です。一つの戦いに勝っても、損害が大きければ、次の戦争では満足に戦えませんからね。…ご 理 解 いただけましたか?」


『あ゛ぁ゛?』


 グラキルスの説明と最後に嫌味っぽい問いに対し、半ギレな反応をする フレイムルとイザベラ。


(仲間を戦死させる前提で作戦を組んでたって事か。さすが、悪の組織の作戦参謀だな。)


「お前がそう言うだろうってのは、最初からわかってんだよ。 でも、そういう事を聞きてんじゃねぇ。」


「俺達は、仲間を平気で犠牲にしようとするお前の考えが気に入らないのだ!」


 効率良く戦争に勝つためという説明では納得いかない二人。


(魔王軍というのは、意外に仲間思いなのか?)


 非情な作戦に怒る二人を見て、少し意外に感じていた。


「…そうですね。 私もやはり、今の説明では納得できませんね。」


 静かに成り行きを見ていた【ヒミカ】が口を開く。


「おや、あなたもですか?」


 意外ですね、と少し驚くグラキルス。


「私達は幹部、魔族達の上に立って正しく皆を導く立場です。 魔族の仲間を守るのも私達の役目ではないでしょうか。」


(おお、いい事を言うな。 やはりまともな方だったのか。)


 さっき怖い人って思ったのを訂正せねば。


「私達の下に付く魔族の方々は 部下であり、仲間であり、家族でもあり、そして奴隷です。 決して、その命を軽んじていいわけではありません!」


(そう、部下で仲間で家族で、…ん?)


「ふっ、何を甘い事を…」


(甘くねーよ! 最後、奴隷って言ってなかったか!?)


 やはり、怖い人だった。


 先程まで怒りの視線をグラキルスに向けていた フレイムルとイザベラは、今度は若干引いた目でヒミカを見ていた。


 コホンッ、と議長席から【クレア】が咳払いをした。


「まあ、最後を除けば ヒミカの言う通りだ。魔族の皆は私達幹部を信じて付いてきてくれている。 正しく導くのが私達の役目だ。

彼らの信頼を壊さないためにもグラキルス、仲間に不信感を抱かせる様な作戦は止めた方がいいだろう。」


「クレアさん、貴方まで…」


 涼しい顔で余裕の態度だったグラキルスが動揺した様子を見せる。


(さすがに、議長からの言葉は効くのか。)


 クレアは魔王軍幹部のトップであり、グラキルス含めた幹部達の上司にあたる。


 上司からお叱りを受けるとは思っていなかったのか、眼鏡の位置を修正しようとする指が震えていた。


「ふん、何が作戦参謀だ。下らない作戦ばかり立てやがって。」


 …ピクッ


「まったく、次からはもうちょいまともな作戦を考えてくれよなぁ」


 …ピクッ


「まあまあ、お二人とも。きっと、いい案が思い浮かばなかっただけですよ。 次は、 頑張りましょう。…次があればですが。」


 …ピクピクッ


(なんか、グラキルスの様子が…)


 黙って、眉をピクピク動かしている。


 額に血管浮いてるし、体も小刻みに震えていた。


「なんか私の方がいい考えが思い付きそうだな~。 ねえ、作戦参謀役、替わってあげようか?」


 軽口を叩く【メリア】


 …ビキッ


(おいおい、その辺にしておけ)


 額の血管が…


「クケケケ 」


 なぜか笑う【ネヴァ】


 —ブッチィィッ


「テメエェェラァァ!! 言いたい放題いいやがって、 この低脳どもがぁ!」


 グラキルスがキレた。


 ついでに額の血管も切れた。


 ブワッと冷気が室内に広がり、一瞬にしてテーブルや壁や柱が凍てつく。


(なっ、部屋全体が凍った!? てか。 寒っ!)


 寒さで、組んでいた腕をより一層きつく締める。


「僕は…俺は、魔王軍の確実な勝利のためにいろいろ考えているんだよぉ! お前らは、黙って俺の作戦通りに働けえ!」


 凍てついた地面から突如、無数の尖った巨大な氷柱が突き出る。


 それらが俺達の前に置かれている長いテーブルを穿ち、そのまま天井や壁を刺す。


 座っている幹部達にも、地面から突き出た氷柱が向かって行く。

 

 幹部達は各々避けたり、魔法で防いだり、破壊したりと対応していた。


 ちなみに俺は、足元から出てきた氷柱が天井に向かって眼前を通過するのを、腕を組んで座ったまま固まって見ていた。


「……………………」


(…………危っ!)



「よいしょっと。」


 椅子を射貫いて壁に刺さった氷柱の上に、メリアが座る。


「アハハ、グラ君 、キレちゃったね~☆」


 足をパタパタと揺らしながら、近くにいる俺に話しかけてきた。


「あんなすぐ怒るなんて。 氷使うくせに、沸点低いよねー☆ アハハハッ」


(笑えねーよ☆)


 そのグラ君は、フーッ フーッと息を荒くして立ち上がっていた。


(周りを凍らせてないで、自分の頭を冷やせよ!)


「危ねぇじゃねぇか、グラキルスぅ!」


 座ったまま魔力で向かってきた氷柱を破壊したイザベラが立ち上がる。


「テメエが仕掛けた喧嘩だ、後悔すんじゃねぇぞぉ!」


 —ガァンッ


 そう叫ぶと、横に拳を振って俺の前にある氷柱を砕いた。


(痛っ! 破片が顔に飛んで来た!)


 氷が砕けて表れた俺と、イザベラの方を向いていたグラキルスの目が合った。


 怒りでバキバキに見開いた眼が、じぃっと俺を見る。


(…やばい。)


「フーッ、フーッ、 …リオンさん、貴方はどうなんですか? さっきから一言もしゃべらない様ですが。」


(やはり、こっちきたかっ!どうする!?)


「…ふむ。リオン、お前からも何か言ってくれ。 グラキルスはお前の元部下だ。お前の言葉なら、彼も落ち着いて聞いてくれるだろう。」


 クレアが俺に余計な任務を与えてきやがった。


 (こんなヒステリックになったインテリヤ○ザみたいな奴を説得しろってか!? 無理ゲーだろ!)


 というか、リオンの部下だったのか。読み取った記憶にはなかったぞ。

 

 おそらく、まだ完全に記憶を見れないからだろう。


(肝心な情報が抜けてる記憶だな~、もう!)


「フーッ、フーッ、 リ~オンさ~んっ」


「ふむ。任せたぞ、リオン。」


「クケケ」


(どうする、俺!? )




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