秘密を聞こう⑤
「これで準備は完了だな」
「気を付けてね」
日が暮れたころ、俺たちは出発の準備を終えていた。
といっても、俺は何もしていない。
しいてゆうなら、移動してすぐに戦闘に入れるように睡眠をとったくらいか。
昼からぐっすりと眠ったので体調は万全だ。
リノたちはその間に出発の準備をしてくれていた。
白いマントには大きな教会の刺繍がされている。
ミシンもないのによくやる。
もはや手の動きが俺の目では追えないくらいになってるからな。
白一色の衣装にこの派手なマントをして、オペラ座の怪人とかに出てきそうなマスクをすれば準備は完了だ。
「そっちも気を付けてくれよ? 隣国がおかしなことをしてるんだ。こっちの魔の森で何かないとも限らない。魔の森がおかしいと思ったら真っ先に逃げるんだぞ?」
「わかってるわよ。レインはほんとに心配性ね」
俺としては、この村のことも少し気になる。
村にはアリアとキーリ、スイとリノの四人だけを残していくことになる。
近くの魔の森と繋がっている隣国が魔の森でおかしなことをしている。
この魔の森に何かあってもおかしくない。
魔物を魔の森の外に誘き出すのは魔の森の逆鱗に触れることになりうる。
実際、昔の対魔貴族がやらかした事があるらしいのだ。
魔石を手に入れるために効率的に魔物を魔の森の外に誘き出して倒していたことがあった。
魔の森の外の方が魔の森の中より外部の魔力が弱くなるため、魔力の塊である魔物は弱くなる。
それを利用して楽に魔物を倒して大量の魔石を手に入れていたらしい。
その時は次第に魔物が強くなっていき、最後には魔の森の大氾濫が起きた。
その対魔貴族の手記には少しだけ大変なことになったと軽く書かれていた。
だが、その後に周りの村の復興を手伝ったりしていた記載を見る限り、実際は大きな被害が出たんだと思う。
ちょっとした被害では復興の手伝いなんてしなさそうなやつだったし。
だから、ここも気をつけておいた方がいい。
とはいえ、何かあったとしても、出てくるのはブラックウルフレベルの魔物だ。
それ以上の強さの魔物はこの辺の魔力濃度では生存できないし、そんな強力な魔物が出てくれば魔の森に何かしらの異変があるだろう。
前にブラックウルフがグレイウルフのエリアにいた時は魔の森からグレイウルフが全然いなくなってたし。
ブラックウルフなら逃げるだけならアリアたちだけでも十分に対処できる規模だ。
ミーリアもいたらもう倒すこともできるんじゃないかっていうレベルだしな。
「じゃあ、行ってくる。ないとは思うけど、一週間して戻ってこなかったら村を捨てて逃げるつもりでいてくれ」
「そっちもわかってるわ。探索がないから、逃げる準備はしておく」
もし、戦場でのっぴきならない状況になって、俺たちが村に戻ってこれなくなった場合はアリアたちには逃げてもらうことにしていた。
冒険者ということにして近隣の村に行き、情報を収集して必要であればそのまま逃げる手はずになっている。
村にはもしジーゲさんが来た時のために魔物が多く出てきているからいったん避難するとの書置きを残していく予定だ。
残しておけば、取り越し苦労だった時に戻ってきて普通に村で生活ができるようになる。
どちらにしろ、ほとんど起こり得ない状況だ。
だけど、準備だけはしておいてもいいだろう。
「すみません。私のために」
「いいのよ。ミーリア。大切な仲間なんだから」
「そうだぞ。それに、たぶん何事もなく終わるだろ」
ミーリアは申し訳なさそうに頭を下げる。
そんな風にされると、こっちが申し訳なくなってしまう。
備えすぎな気もしているからな。
昼寝するのになかなか眠くならなかったから眠くなるように難しいことを考えてたってだけだ。
「レイン兄ちゃん! 行ってらっしゃい!」
「お土産、期待してる」
スイとリノはアリアやミーリアと違ってお気楽モードだ。
キーリもどちらかというとそっち側だな。
「スイ、旅行に行くんじゃないからお土産は買ってこれないぞ」
「その辺に、落ちてる、石とかで、大丈夫」
「俺もそれでいいぞ!」
そういってスイとリノはピースサインを向けてくる。
どうやら、二人は俺たちの緊張をほぐすためにそんなことを言ってくれたらしい。
「わかった」
「きれいな石を拾ってきますね」
俺もミーリアも柔らかく微笑む。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
俺たちは戦場へ向けて出発した。
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