秘密を聞こう④

「やることは簡単なんだし、俺一人で行ってくればいいよな?」

「え?」


 方針が決まったところで、具体的な方法を決めることにした。

 そこで、俺は一人で行くことを提案する。


「戦場に行って、必要なら魔物を倒して、被害者を片っ端から治療して、最後に魔道具を壊してくればいいんだろ?」


 『天誅』のやり方から考えて、目的は魔物を扱う魔道具の破壊を目的として動く必要がある。

 その途中の情報収集のために軍に立ち寄り、敬虔な信徒のために治療をすると言うシナリオだ。

 どうやら、似たようなことが以前にあったらしい。


 この国の宗教は一つしかないので、軍にいる負傷者は全員敬虔な信徒として癒すことになる。

 ミーリアの友人の顔を知っている必要はないのだ。


「わざわざみんなで行く必要もないし、俺一人で行ってさっさと終わらせてくればいいだろ」

「そうね。レイン一人の方が移動も早いし」

「それもあるな。往復含めて二日あれば行けると思う」


 前に見せてもらった地図を考えると、全力で移動すれば国境まで一日でいける。


 普通の場所を全力で走ると余波で周りに被害が出るかもしれない。

 急には曲がれないので、進行上に村とかがあると突っ込んじゃうかもしれないし。


 けど、この辺の国は長いこと戦争をしていて、土地に対して人口が少ないせいで、魔の森の近くに人の住めない空白地帯がある。

 そこなら周りの被害も気にせず、気兼ねなく全力で移動できる。

 戦争も魔の森からそこまで離れていないところでやっているようだし。


 人が住めないところというだけあって、魔物も結構生息しているらしく、誰か連れて行くのはちょっと危険かもしれないけど、一人で行くなら気にする必要もない。


 向こうについたら魔物の痕跡をたどって魔道具のある所を探せばいい。

 魔物の痕跡を追うだけなら、リノがいなくても『追跡』の魔術でできるはずだ。

 魔道具を持っている奴は戦場の魔の森側にいるだろうし、そこまで必死に探さなくても見つかる。


 ミーリアの友人はその『天誅』?とか言うのに化けてけが人を治していればそのうちたどり着くだろ。


「じゃあ、さっそく戦場に行ってくるよ。どんな格好していけばいいんだ?」

「……レイン。私も連れて行ってもらえませんか?」


 準備を始めようとすると、ミーリアがそう提案してくる。

 ミーリアの方を見ると、ミーリアは真剣な瞳で俺の方を見ていた。


「私がいたほうが、何かあったときに対処しやすいと思います。……いえ、それはただの建前ですね。わたしは、私の手でマーレンを助けたい。マーレンが第三王子派に乗り換えたのは私が原因なんです。だから……」


 ミーリアは真剣な瞳で俺の方を見る。


 俺なら、どうするだろうか?

 リノやスイが俺のせいで危険な目にあえば何を置いても駆けつける筈だ。


「……わかった」

「いいんですか?」

「まあ、何かあったとき、ミーリアが一緒にいてくれた方が対処しやすいっていうのも事実だしな」


 少し考えてから許可を出す。

 ミーリアがいてもそこまで困らない。

 それどころか、この辺りの常識を知らない俺のフォローをミーリアがしてくれればバレる可能性は減る。

 俺は『天誅』のことも知らなかったし、いてくれないとむしろ困るかも。


 それに、できればミーリアと友人を会わせてあげたい。

 怪我をしたと聞いてとても心配していたみたいだし、様子を確認したいだろう。

 友人として接することはできないとしても、顔を見るだけでも少しは気が晴れると思う。


「ミーリア一人くらいなら抱えていても速度を落とさずに済むし。俺が抱えて行ってもいいよな? ちょっと乗り心地は良くないと思うけど」

「……大丈夫です」


 ミーリアは青い顔をしながらうなずく。


 二人だと移動速度が一気に落ちることになるが、その辺も俺がミーリアを抱えていけば解決できる。


 問題は俺に抱えられるのはけっこう酔うことくらいか。


 アリアが前にかなり大変だったと教えてくれた。

 それを聞いてもリノは休みの日俺に運んで欲しがったのだが、一度運んでやると青い顔をしてうずくまってしまった。

 それ以来リノには運んで欲しいとは言われていない。

 相当乗り心地が悪かったんだと思う。


 ミーリアもダウンしたリノを見ていたから、できれば俺に運ばれたくはないだろう。


 今更だけど、人を運ぶ練習しとけばよかったかな?


 だが、一緒に行くなら抱えていくのは決定事項だ。

 それが一番守りやすい。

 俺は魔術で戦うから両手が塞がってても支障は出ないし。


「わかった。ミーリアがそうしたいならそうすればいいわ。それに、ミーリアがいる方がレインのうっかりで正体がばれるってこともなくてよさそうだし。じゃあ、リノ。二人分の仮面を作ってもらっていい?」

「わかった」

「キーリとスイはマントに刺繍をするの手伝って。たしか、『天誅』は背中に教会のしるしが書かれたマントを着ていたはずだから」

「「任せて」」


 アリアの指示を受けてそれぞれが準備を始める。


「夕方までには作れると思うから、二人はそれまで休んでおいて」

「ありがとうございます」


 ミーリアは深々と頭を下げる。


「いいのよ。普段あんまりわがままを言わない……こともないけど、ミーリアの頼みだもの」

「……普段ももう少し抑えます」


 アリアが言うと、ミーリアの笑顔が固まる。

 たしかに、今回の件はみんなの負担という意味では普段のミーリアよりはましな気がするな。


「じゃあ、今後はミーリアも暴走を抑えてくれるってことだし、今後のためにもバレないように頑張ろう!」

「「「「おー!」」」」

「お、おー」


 みんなで気合を入れるように拳を振り上げて声をあげる。

 ミーリアも恥ずかしそうに拳を上げてくれた。

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