ジーゲさんと商談をしよう③
「……それは、……本当なのですか?」
「えぇ。私も出発の直前に聞かされたことなので、詳しい話は聞いていないのですが、間違いではないようです。今回戦場に出ない予定だった辺境伯様も軍を率いて戦場に向かったそうなので状況はおそらく悪いかと……」
ミーリアは呆然とした様子でジーゲさんの話を聞く。
ちゃんととりつくろえていたかはわからない。
ミーリアはジーゲさんの説明は半分くらいしか理解できていなかった。
話が難しかったとかではなく、ジーゲさんの説明の中に出てきた人物に意識を全て持っていかれていたからだ。
マーレン。
それはミーリアを最後までかばってくれた友人の名前だ。
ミーリアが今も昔のことをいい思い出として思い出せるのは彼女がいてくれたからでもある。
毎年開かれていた誕生会には必ず出席をしてくれていたし、学園でも一緒に楽しく過ごした。
もう一年以上あっていないが彼女の顔は鮮明に思い出せる。
彼女も貴族に名を連ねるもの。
それに、彼女は魔術師だ。
戦争に行くことは絶対にないとは言えない。
でも、彼女は女性だった。
普通、戦争は男性が行くものだ。
なんで彼女は戦場に行くことになったのだろう。
それに、指揮官や魔術師といったものはなかなか傷を負うことがない。
一人を育てるのに時間がかかるというのもあるし、長距離からの攻撃ができるので、大体は軍の後方に配置されるからだ。
なんで彼女が傷を負うことになったのだろう。
それに、彼女の家は隣国とのつながりが強い第二王子派で、隣国が攻めてきたときもマーレンの家が治めるマルティン領はあまり攻められることがなかったはずだ。
なんで今回に限って攻められたのだろうか。
そんなことばかりが頭の中に浮かび上がってくる。
まさか、自分をかばったばかりにそんなことになったのではないだろうか?
「どうやら、隣国の魔物は『魔傷』と呼ばれるポーションでは治らない傷を与えてくるらしく。今はポーションで延命しているようですが……」
マーレンの命が危ない?
ミーリアはジーゲさんのセリフを聞いて心臓がつかまれたような気持になった。
『魔傷』。
レインに読ませてもらった本に書かれていた呪いの一種だ。
呪いといってもとても弱いものだ。
レインが受けているような死に直結するようなものではない。
魔物が与えた傷の中に魔物の人を傷つけようとする思念が残る場合がある。
その思念が邪魔をして傷の治りが遅くなったり傷が広がったりするものだそうだ。
これの一番厄介な所はポーションのような方向性の決まっていない魔力は『魔傷』の効果で回復の力に変換されにくくなってしまうことだ。
実際には全く効かないわけではないようだが、ポーションの回復力はほとんど無くなってしまう。
ポーションが効かない以上、回復魔術で直さないといけないのだが、回復魔術の使い手は貴重だ。
それに、完全に『魔傷』を治すためには『魔傷』を吹き飛ばすくらいの強い回復魔術をかけないといけない。
だが、そこまでの回復魔術の使い手は片手で数えられるくらいしかいない。
『魔傷』を治せるほどの回復魔術の使い手が間に合うかどうか。
(私なら……)
今のミーリアであればおそらく治せるだろう。
助けに行きたいがそう簡単にはいかない。
ミーリアは回復魔術が使えないことになっている。
もし回復魔術が使えるようになったと知られれば色々と調べられる、レインのこともバレてしまうかもしれない。
そうなれば、これまでのような生活は送れないだろう。
レインは危険人物扱いされるだろうし、ある程度魔術が使えるようになったスイやリノは戦場に駆り出されることになるだろう。
アリアだって、今は魔術が使えないと思われているから実家からの干渉があまりないが、魔術が使えるとわかればアリアの実家も何かのアクションを起こしてくるかもしれない。
ミーリアのわがままでみんなを危険な目にあわすわけには行けない。
(でも、もし間に合わなければ……)
ミーリアは親友の死を想像してしまった。
「どうかしましたか?」
「え? いえ。大丈夫です」
青い顔をして考え事をしていたミーリアはジーゲさんの言葉を聞いて我に返る。
ジーゲさんはいぶかし気な表情をしていたが深くは聞かないでくれるらしい。
「そうですか。とりあえず、日持ちのしない食物は今日いただいてそのまま領都の方に戻ります。すぐに帰って来ますので、申し訳ありませんが、できるだけポーションを作っておいていただけますか? できるだけ早くポーションを戦線に届けた方かいいと思うので何往復もするつもりでいます」
「わかり、ました」
ミーリアは心ここにあらずという感じで返事をした。
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