ジーゲさんと商談をしよう④
「じゃあ、とりあえず、作るべきものはポーションだけなのね?」
「えぇ。少し急ぎで作ってほしいそうです。どうやら、領主様もご満足されたようなので」
「そう。わかったわ」
ジーゲさんが帰った後、俺はミーリアやキーリと今後の錬成の予定を決めるために工房に集まっていた。
ジーゲさんは商談を終えるとさっさと帰ってしまった。
少し遅い時間だったが、無理してでも早く帰りたかったようだ。
理由はおそらく俺たちが売った食材だろう。
やはり、収穫時期は格段に速かったらしい。
近くの国を合わせても収穫されているところがないらしく、この時期ではまだ市場に出回っていない食材だそうだ。
時季外れの食材というのは高く売れる。
前世でも促成栽培とかハウス栽培とかで育てた野菜は高く売られていたように思う。
そして、別の時期の食材を高く売るためには鮮度が重要になる。
鮮度が落ちてしまえば、前年に収穫されていたものを凍らせて保管していたりするのと差別化できなくなってしまう。
まあ、食材を凍らせる魔術は結構難しいので、一年間こおらせ続けた食材はかなり高くなってしまうんだけどな。
高く売れるのであれば全然違う季節の食材を育ててみるのもありかもしれないな。
いや、さすがにビニールハウスみたいなのを作らないと違う季節の食材を育てるのは無理か。
ビニールハウスの作り方はさすがにわからないな。
今度みんなと相談してみよう。
それはさておき、今回はポーションを作成すれば良いらしい。
ほかに作るべきものがないと聞いてキーリは胸をなでおろす。
スタングレネード用の素材を作らなくてよくてホッとしているようだ。
あれ無茶苦茶大変らしいからな。
特に魔狂キノコの無毒化。
時間も手間も相当だと書いてあった気がする。
追加の素材が必要ないということは、対痴漢用のスタングレネードは売れなかったということだろう。
まあ、痴漢に対してはオーバーキルだし、当初の『相手をケガさせない』という目的がどっかに行っちゃってるようだから仕方ないか。
「スタングレネードは売れなかったみたいだけど、対魔物用に役だったんだから、作った意味はあっただろ」
「……スタングレネードですか?」
俺がミーリアを慰めようと思ってそういうと、ミーリアは不思議そうな顔で俺の方を見てくる。
ん?
どうして不思議そうな顔をするんだ?
「スタングレネードの追加素材がないってことは売れなかったんじゃないのか?」
「……あ!」
ミーリアは口に手を当てて驚いた顔をする。
「すみません。交渉するのを忘れてました」
ミーリアは申し訳なさそうに顔を伏せる。
どうやら、本当にスタングレネードのことを忘れていたらしい。
ミーリアが自分のやりたがっていたことを忘れるなんて珍しい。
俺が言ったので思い出してしまったらしいけど。
どうせなら完全に忘れていてほしかった。
「……」
キーリからは余計なことをという恨みがましい目で見られる。
いや、ミーリアも少し忘れてただけで言わなくても思い出したと思うぞ?
「……」
いや、あの。
……ごめんなさい
「二週間後に来る時に余裕があれば聞いてみますね。対魔物用にも役立ちそうですし」
「……そうか」
俺が視線でキーリに謝罪していると、ミーリアが歯切れの悪いように言う。
それに、王都の悪漢に対して憤っていたミーリアがスタングレネードの用途を悪漢用から対魔物用に路線変更したのも少しおかしい。
ミーリアは結構頑固なところがあるから、こういったことは一度決めればなかなか方向転換しないのに。
キーリも少しおかしいと思っているようだ。
不思議そうな顔でミーリアを見ている。
「なあ、ミ――」
「三人とも。昼ご飯できたから運ぶの手伝って。午後はポーションの材料を取りに行くから早く食べちゃった方がいいでしょ」
俺がミーリアにそのことを聞こうとすると、アリアが部屋に入ってきた。
どうやら、昼食の準備ができたらしい。
「今行く」
俺は素早く立ち上がって食堂に向かう。
早くしないと俺の仕事が無くなってしまうからな。
俺は料理はこういう時しか手伝えないから、率先して手伝うことにしている。
別に何もしなくても何かを言われることはないが、できないことが多いのでできることはちゃんとしないといたたまれなくなる。
さすがに料理を運ぶのを失敗したりはしない。
俺はドジっ子ではないのだ。
ミーリアの件は少し気になるが、食後にでも聞けばいいだろう。
だが、この後、ミーリアは心ここにあらずという状況で、料理をひっくり返したり、探索でミスをしたりと普通な様子ではなかった。
そのせいで、その原因を聞きづらくなってしまった。
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