探索再開しよう⑤

「体が動かなくなった?」

「うん。ブラックウルフと目が合うと、体が動かなくなったんだ」


 リノを回収した俺たちは、いったんセーフエリアまで戻ってきた。

 相当怖かったらしく、俺がたどり着いたときには汗をだらだらと流していてそのまま探索できそうな状態じゃなかったからだ。


 しばらくすると、かなり落ち着いたらしく、いつものリノに戻った。

 思ったよりケロッとしていて拍子抜けしてしまったくらいだ。


 そこでリノの話を聞くと、リノはブラックウルフを発見した後、体が動かなくなっていったらしい。


「もしかして、魔物の魔法じゃないでしょうか?」

「魔物の魔法?」

「近くの国に出る蛇の魔物が相手の動きを止める魔法を使うと聞いたことがあります。ブラックウルフもそのようなものを持っているんじゃないでしょうか?」

「なるほど」


 人間は魔術を使える。

 魔術はかなり体系化されていてどんな人間でも使える様に作られている。

 当然、人間用のものなので動物や魔物は使うことができない。


 しかし、魔物は魔術ができる前からあった魔法を使うことがある。

 ブラックウルフはそれを使ったのかもしれない。


 実際、炎属性を持っていそうだから炎の魔法には警戒していた。

 リノたちには言っていなかったが、リノたちの防具にはシレッと炎防御の付与をつけたりしている。


 だが、どうやらそれ以外も使えるらしい。

 かなり厄介だ。


「魔術の『威圧』みたいな魔法だとすると、『恐慌』状態になってたのかもな」


 魔術の中にも『威圧』とかの相手の動きを封じるものがある。

 相手の魔力の流れを乱して、相手が身動きできなくする魔術だ。

 その症状がパニック状態に近い状態になることから『恐慌』状態と呼ばれていた気がする。

 そう言われると、さっきのリノの症状はまさにそれだ。


 魔術に存在するということは魔法に存在してもおかしくない。

 もともと魔術は魔法から生まれたものなのだから。


 だが、俺はそういう魔法を持った魔物とは会ったことがなかった。

 対魔貴族の所有している魔道具にも、そういった状態異常を防ぐ魔道具はなかったから、いないと思っていた。


 いや、こういった相手を弱体化する魔術は相手が自分と同等以下のじゃないと効かない。

 おそらく魔法も一緒だろう。


 対魔貴族は一人で戦うことが多かったので、いつも対峙する魔物は格下になる様にしていた。

 だから、出会っていたけど気付いてなかっただけかもしれないな。


「しかし、そうなると、探索が難しくなるな」


 リノの動きが止められたということは同等の能力であるアリアたちも動けなくなる可能性が高い。

 そうなればパーティとしての戦闘ができなくなる。


 パーティで戦うことを前提にブラックウルフと戦える算段だったので、ブラックウルフとの戦闘は早すぎたのかもしれないな。


 一旦、前のエリアに戻るべきか?

 でもそれでは修行にならない。


 対魔貴族が一人で修行をしていたときは魔物と対峙できるくらいになるまで新しいエリアに入ってじっとしてることを推奨していた。

 だが、そうすると探索が全然できなくなってしまう。


 もしくは俺が索敵をするか。


 ……ブラックウルフと出会わないあたりで俺が索敵をするのが一番安全かなー。


 リノの索敵能力が少し気になるけど。

 どうも実践しながら魔力を上げるとステータスに出ないような部分が上がっているような気がするのだ。

 斥候としての能力だけなら俺よりもリノの方が上な気がする。


 魔術で強化してしまえばまだまだまけないが、魔術で強化できないような部分ではリノの方が既に得意だ。

 元々の才能もあったとは思う。

 俺が索敵をしてしまえばその部分が伸びなくなってしまうかもしれない。

 でも、この方法であれば修行をしながら素材を探すこともできる。


 背に腹は代えられない。

 今後も探索能力を上昇させる機会はあるだろうしな。


「ごめん。俺の判断ミスだ。一旦、前のエリアに戻って探索しよう。索敵は俺が代わる」

「え!? 俺は大丈夫だぞ! 見つかる前に逃げればいいんだ! 今回だって向こうより先に気づいたんだ!」


 確かに、ブラックウルフがリノを認識しなければ魔法は発動しないのだろう。

 今回も、ブラックウルフを見つけてリノが逃げだす動きを見せた後にブラックウルフに見つかって動けなくなっていた。


 ブラックウルフに見つかる前に俺たちのところに戻ってきてくれたなら問題はないように思える。


「……いや、失敗した場合のリスクが高い。やめといたほうがいいだろう」


 ブラックウルフに見つかって逃げられなかったらリノが死ぬこともあり得る。

 常に俺が助けに入れるかはわからないのだ。


 万に一つでも死ぬ可能性があるのであれば、そのリスクは犯せない。


「……わかった」


 リノはうつむいてそう答える。

 その声音からは悔しさがにじんでいるように感じだ。

 リノは自分のせいでみんなに迷惑をかけたと思っているのだろう。


「別にリノのせいじゃないよ」


 俺は優しくリノの頭を撫でる。

 今の俺には慰めてあげることしかできない。


「……ねぇ。レイン。その魔法、防ぐようなアイテム作れないかな?」


 俺がリノと話をしていると、キーリが突然そんなことを言い出した。

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