魔道具を作ろう①
「魔法を防ぐ。それも『恐慌』とかを防ぐ魔導具は本に書いてあった気がするの」
「まあ、あるとは思うけど……」
魔力を使った状態異常には魔力を使う魔道具で対処することができる。
というか、魔道具は魔力を吸って防御したり攻撃したりするものだから物理的な攻撃とかより魔力を使った攻撃に対処するものの方が多い。
たしかに、ただ怖がっているだけなら魔道具で対処することは難しいが、魔法で状態異常にされているのなら、魔道具で対処できるかもしれない。
根本的に、ブラックウルフが使っているのは『恐慌』状態を引き起こす魔法ではないかもしれないけど、そのときは魔道具を作り直せばいいだろう。
「……魔道具より薬とかの方が作りやすいんじゃないか?」
「薬より魔道具の方が安全でしょ? リノが使うことになるんだから、安全なもののほうがいいわ」
「……そうか」
薬は危険性がある。
古代魔術師文明時代の本にはそう書かれていた。
書き方的に前世で言う、「遺伝子組み換え食品は体に悪い」的な感じだから事実のほどはわからない。
「次第に体を蝕んでいって〜」みたいな。
魔道具にデメリットがないかどうかはわかってないし。
キーリたちもだいぶ古代魔術師文明にかぶれてきたな。
今の時代ですぐに効果の出ない毒なんて毒のうちに入ってないからな。
五十年後に死ぬ毒なんてそんなの毒がなくても死ぬわって感じだ。
俺としてはあっちの価値観の方がしっくりくるし話が合う人が増えるのは嬉しいんだが。
この時代の考え方も理解はできるんだけど、少し奥歯に何か挟まった感じを受けるんだよなー。
それはさておき、キーリは薬より魔道具を作りたいらしい。
どちらを使ってもそこまで大きな違いがないのであれば、キーリの希望を通してもいいだろ。
問題は難易度くらいか。
「魔道具は作るのが難しいんじゃないか?」
「やってみるわ! リノのためだもん!」
キーリはかなりやる気だ。
……当然か。
キーリにとって、リノは本当の家族だ。
俺たちはみんなが家族みたいなものだけど、やっぱり血を分けた姉妹というのは特別なんだろう。
リノもキーリの言葉を聞いて少し嬉しそうにしている。
アリアとミーリアの方を見ると、二人も不満はなさそうだ。
スイも不満はなさそうだし、その方向でいいだろう。
「じゃあ、いったん帰って魔道具の作り方を確認するか。この辺で取れる素材も使うことになるだろうけど、一旦帰ろう」
俺たちは帰路についた。
***
「『恐慌』状態を防ぐのに使えそうな素材がいっぱいあるわ」
「そうなのか?」
帰りながら、キーリは道中の素材を回収している。
おそらく、リノの魔道具に使うためのものだろう。
魔の森の特徴として魔物がいる場所でその魔物に対抗する素材が取れることが多い。
なぜかという答えは俺の知っている限り古代魔術師文明時代も出てはいなかった。
普通に動植物が進化して魔物に対抗する特性を得たというのが俺はしっくりくる。
魔の森は魔力に満ちてるからそこにいる動植物の進化も早いだろう。
魔女教なんかの懐古的な宗教では、魔の森は神が人間に試練として与えたものだからというのが主流らしい。
神は越えられない試練を人に与えないんだそうだ。
正直、どっちでもいい。
事実として、そういう素材がその場所で採れるんだから、その理由なんて考えるだけ無駄だ。
古代魔術師文明時代の宗教が残ってないのもそういう理由かもしれないな。
今の時代は当時より生きづらい。
生きるのに直結しないそういう考えは廃れたのかも。
残っているのは現世利益を掲げる一派閥だけだ。
なんという宗教だったっけ?
俺はそんなくだらないことを考えながらアリアたちと村に戻った。
***
「あったわ。 これね」
「なになに? 護心指輪?」
キーリの言っていた魔道具はすぐに見つかった。
どうやら、キーリは相当この本を読み込んでいるらしく、索引なんかを見ることもなくペラペラとページをめくってその記述を見つけてしまった。
ほとんど作れないのに、熱心だな。
俺なんて魔道具系の本は最初の数ページを読んで中身は全然読んでない。
「なになに? 『失敗。それは誰にでもあり得ること。そして一度失敗したことは何度も失敗しちゃう。その原因は 緊張 。「いつも緊張で頭が真っ白になっちゃうの」っていうあがり症な君にオススメなのがこの『護心指輪』魔術の力で緊張を抑えてくれるの! これであなたの恋も叶っちゃうかも!?』?」
なんだこの説明?
もう少しまともな本もあったはずなんだけど……。
これ、本当に大丈夫なのか?
「ね? これで『恐慌』状態を抑えられるんじゃないかな? この辺に効能とかも書いてあるの」
「どれどれ?」
キーリの指差すところを見る。
確かに、効果の欄に「精神系の状態異常、『恐慌』を抑えることができます。」と書いてある。
よく読んでみると、その本には失敗しやすい部分の注意とか、作成途中を写真で説明してあったりかなりわかりやすい。
もしかしたら、子供用の錬成の入門書みたいなものなのかもしれないな。
第一印象で決めちゃダメってことか。
「これで問題ないんじゃないかな? 効かなかったとしてもそこまで問題になるわけでもないし、いったん作っちゃえば?」
「じゃあ作るわね。材料は……あ!」
キーリが本を見直して、大きな声を上げる。
「? どうかした?」
「こ、これ……」
本のキーリが指差す部分を見る。
「『ベースとなる指輪には魔力伝導率の良いミスリル製のものをご利用ください』か」
魔道具作りはいきなり暗礁に乗り上げた。
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