修行のせいか②
「できるだけ早く森の奥に行きたいし、耕作は最小限にして探索に時間をかけたほうがいいんじゃないかと思うの。金銭的な面では探索をしたほうがお金になるみたいだし」
「なるほどねー」
農業というのはかなり手間がかかる。
正直な話をすると、魔の森の中から収穫してきたものを売ったほうがお金になるのだ。
「それもいいんじゃないか?」
「私は反対です」
「ミーリア?」
俺とアリアが話をしていると、ミーリアが参加してくる。
「この村は農業をすることを目的に任されています。ですので、耕作地は最低でも去年と同じにするべきです」
「で、でも、早くスイの魔導書のヒントを探しに行かないと」
「私なら、大丈夫」
スイも会話に入ってきた。
「魔導書の影響は、全然感じられない。だから、大丈夫」
魔導書があった遺跡の工房の奥には書類室のような場所があった。
金庫みたいなものもたくさんあり、中をすべて調べられたわけではないが、そのうちの一つがスイの魔力に反応して勝手に開いた。
その金庫の中には名簿のようなものと、地図のようなものが一緒に保管されていた。
おそらく、魔女教の関係する施設とかの場所なんだと思う。
金庫もスイが魔導書に選ばれたから開いたのだろう。
魔力認証で開く金庫は古代魔術師文明では当たり前のように使われていた技術らしいし。
とりあえず地図にあるほかの施設も調べてみようとなったのだ。
俺一人で行って探してみたが、施設を見つけることができなかった。
当時は道路や目印があったのだと思うが、今はすべて魔の森に埋もれている。
施設だってほんとに残っているかはわからないのだ。
前の民家っぽいものは偶然残っていただけで、ほかの施設は残っていないかもしれない。
まあ、何にせよ感覚の鋭いリノを連れて行かないと見つけることはできないだろう。
というわけで、リノがその辺に行けるようになってから再び探そうということになった。
幸い、一番近い施設は今探索しているエリアより少しだけ奥に行ったところにあるので、もう少しすれば行けるようになる。
アリアは早くそこにいきたいのだろう。
スイのことを心配なのはよくわかる。
だが、無理は禁物だ。
無理して全てをダメにしてしまっては元も子もない。
「でも……」
アリアは俺の方をチラチラとみる。
いや、そんな目で見られても助け舟は出せないぞ?
「まあ、スイもそう言ってるんだし、耕作面積は現状維持でいいんじゃないか?」
「レインがそういうなら……」
ん?
俺の意見は関係なくないか?
「? まあ、とりあえず、耕作面積は去年と一緒って事で」
「そういえば、レイン兄ちゃん。レイン兄ちゃんの魔術でババっと畑を作ったりはできないのか?」
「それはできないんだ。この辺りは土地に含まれている魔力が多いから、魔術で土地に影響を与えることはほぼ不可能だな」
魔の森から遠い場所では普通の農業が行われている。
だが、魔の森の近くの農業は少し勝手が違う。
魔力の多く含まれた土地は神に愛された土地として特別に扱われてきた。
土地自体に魔力が豊富に含まれているので農作物は普通の場所の数十倍のスピードで成長する。
だが、農作物を正しく成長させるためにはその土地を人間のものとする必要がある。
これは魔法的な部分で俺もよくは知らない。
その辺りの文献も残ってないしな。
何でも、遥かな昔、大地の神と人間が契約を交わしたのだそうだ。
その契約によって、クワをふるい、耕した土地については人間のものとしていいということになったらしい。
まあ、そんなわけで、土地を耕す効率的な魔術はないのだ。
魔術は古代から誰でも使える魔法だった物事には弱い。
魔法でできてしまうんだからわざわざ魔術にする必要性もなかったんだろう。
天候関係や未来予知なんかも苦手な分野だ。
あと房中術とかな。
「まあ、楽にする方法はいくつかあるから、今年はそれを試してみよう。もしかしたら去年の耕作面積を保ったまま探索時間も今くらい取れるかもしれないし」
「……そうね」
アリアは完全には納得していないようだが、理解はしてくれたようだ。
さて、このあとどうなっていくことやら。
「じゃあ、明日からもう少し深いところに行くぞ」
「やった! 新しい遺跡に行くんだな!」
「いや、遺跡に行くのは魔物が倒せるようになってからだ。今まで通り、最初は探索しながら魔物が倒せるくらいまで鍛える」
今までも新しいエリアに突入すれば数日は収穫だけをして魔物に見つかりそうになったら逃げていた。
今回もそのスタンスは変えるつもりはない。
「焦る気持ちはわかるけど、遺跡の中には魔物もいるかもしれないんだ。魔物と戦える力がないと危険で探索できないよ」
前回は遺跡の中にはなにもいなかったが、俺が昔、魔の森の中で見つけた遺跡は中に魔物がうじゃうじゃといた。
その遺跡の方が魔力濃度の高いところにあったから一緒にはできないけど、用心に越したことはないだろう。
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