修行のせいか③
「なぁ。レイン兄ちゃん。次のエリアにはあの黒い狼が出るんだよな」
「……あぁ。そうだな」
次のエリアに行けば出てくるのは前に一度村に攻めてきたことがあるあの黒い狼だ。
ミーリアやアリアもあの黒い狼について知らなかったようなので、仮にブラックウルフとしておこう。
大きさはあんなに大きくなかったが、黒い毛並みとか特徴を考えるとあいつだろう。
強さについてはわからない。
というのも、発見したから一度戦ってみたのだ。
だが、当たり前のように一撃で倒せてしまった。
よく思い返してみると、村に攻めてきたブラックウルフも一撃だったからな。
森の中で倒したブラックウルフは村に来た個体ほど魔石は大きくなかった。
あいつは変異種かグレイウルフを大量に捕食したからでかくなったんじゃないかと思う。
「まあ、今のリノたちでも戦えなくはないと思うぞ? 失敗したら手足の一本や二本、持っていかれるかもしれないけど」
「それはいやだな~」
実際、ブラックウルフとグレイウルフの間ではそこまでの力の差はないと思う。
戦えばブラックウルフが必ず勝つだろうが、五匹くらいで束になればグレイウルフが勝つかもしれない。
あの大きくなったブラックウルフは相当運が良かったのだろう。
じゃないと、外に出てくる前に倒されていたはずだ。
「まあ、明日は休みだから、挑戦するのは明後日だな」
「そうだな」
リノは期待と不安のこもった瞳で強くうなづいた。
「そういえば、ジーゲさん。なかなか来ないわね」
「ジーゲさん? あぁ。あの商人の人か」
アリアがふと思い出したように言う。
そういえば、雪が降り始めたころに恰幅のいい商人の人が訪ねてきて、いろいろと注文を取ってくれていた。
雪が降らなくなって久しいが、まだくる気配はない。
「この辺はもう雪が降ってないけど、町ではまだ降ってるんじゃないか? 魔の森の近くは雪が降りにくいんだし」
「……確かにそうね。あんまりに快適だからここが魔の森の近くだってことを忘れかけてたわ」
「いや、忘れるなよ」
魔の森の近くは一年中温暖な気候の場合が多い。
魔力の影響で過ごしやすい気候になっているらしい。
だから、ここで雪解けを迎えているからと言ってジーゲさんがいる町で雪解けを迎えているかはわからないのだ。
一番近くの村でさえまだ雪が降っているかもしれないのだから。
それより、アリアの危機感が下がっていることの方が問題かもしれないな。
「まあ、気長に待てばいいさ。それとも、何か必要なものでも頼んでたのか?」
「いいえ。錬成鍋も遺跡で見つけたものがあるし、問題ないわ。ただ、来たことさえ忘れ始めてたから」
「確かに……」
この村は完全に自給自足が成り立つ。
唯一足りないのは服とかだ。
最近は休みの日を使ってミーリアが裁縫を始めたようで、日に日に服飾が可愛くなってきてはいるが、それでも王都の最新鋭のお洒落には程遠いらしい。
俺にはよくわからない。
「そうですね。早くきて欲しいです。せっかくキーリさんが知力の上がるブレスレットを作れるようになったのに、これでは売れないじゃないですか」
「ハハハ。そうね。頑張ったから早くきて欲しいわ」
キーリはブレスレットの作成に成功していた。
やはり、魔力量がネックだったらしく、総魔力量が20を超えれば簡単に作れるようになった。
「私も、古代魔術師文明の字を、読めるようになったから、いろいろ作ってみたい」
「いいわね。スイは、私も早く読めるようになりたいわ」
スイたちは古代魔術師文明の言葉の解読に成功した。
成功したというか、スイがどうして読めなかったかの理由を解明してくれた。
ブレスレットと原因は一緒だった。
どうやら、知力が10以上ないと読めないようになっていたらしい。
スイは魔導書を手に入れて一度古代魔術師文明の文字が読めるようになった。
だが、魔導書を封印されたことで全く読めなくなってしまったらしい。
魔導書を持っていたときは読めていた部分でさえ読めなくなったのだとか。
そこで、スイは魔力量とか他の値とかを確認しながら毎日古代魔術師文明の本を読み続け、知力の値が10になると読めるようになることを発見した。
キーリやミーリアも知力が10になると読めるようになったのだからほぼ間違いないだろう。
俺は物心つく前から魔の森で鍛えられてたからな。
知力10以下なんて体験していない。
そんな仕掛けがあったなんて全然知らなかった。
まあ、俺が持ってる本には全て『状態保存』の魔術がかかってるんだし、そういう縛りもかかっていても不思議ではないか。
おそらくあの翻訳本だと思っていた本はその魔術をかけ忘れたのか、だれかが解いたかしたんだろう。
いつの時代も脱獄行為をする奴はいるんだなー。
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