特産品を作ろう!③

「じゃあ、今日こそ複数のグレイウルフと戦闘するぞ!」

「うおー! やってやるぞー!」

「ちょっと、楽しみ」


 アリアたちと話した翌日、朝食を終えた後に魔の森の奥に行くことを切り出すとリノもスイもやる気満々だった。


 まあ、最近はミーリアに引っ張られる感じで魔の森に入っても歩き回るだけみたいな日もあったからな。

 テンションが上がる気持ちもわからなくはない。


「まあ、落ち着け。今までと大して変わらないからな。やることが大きく変わるわけでもないし」

「わかってるって! レイン兄ちゃん!」

「グレイウルフを、倒す」

(ほんとにわかってるのかな)


 ちょっと不安になってキーリのほうを見ると肩をすくめられてしまう。

 どうやらお手上げのようだ。


(いつもより注意して二人のことを見ておかないとな)


 俺は心にとめて魔の森へと向かった。


***


「レイン兄ちゃん。あっちにグレイウルフが二体いた」

「そうか。じゃあ、そいつらをこの辺に引っ張ってきてくれ」

「わかった!」


 一週間ちょっとぶりに魔の森の深い部分まで来た。

 このあたりでは複数体のグレイウルフが群れている。


 心なしか一体一体の肉付きもいい。


 魔の森の中では線を引いたかのように魔力濃度が変わる。

 そこを超えると一気に魔物が強くなる。

 当然、生息している魔物の数も一気に増える。


 ここに来てから数度魔物とニアミスしている。

 それらがすべて三体以上だったので接触しないように移動してきたのだ。


 普通こんなことはできない。

 ここに来るまでは俺が誘導する役をしようと思っていたが、リノが誘導まで全部できてしまった。


 リノの索敵能力はいつの間にかめちゃくちゃ上がっていたのだ。

 グレイウルフに気づかれるよりだいぶ前にこちらがグレイウルフを捕捉できている。

 索敵魔術をまだ教えていないのにこんなにできてしまうのは正直予想外だ。

 俺でも魔術を使わなければそんなことはできない。

 やはり特化して成長させる方が俺みたいにオールマイティに育てるよりいいみたいだ。


「……お? 来たかな?」


 俺が考え事をしていると、リノが俺たちのほうに向かって全力で移動しだした。

 その後ろにはグレイウルフが二匹ついてきている。


「じゃあ、みんな戦闘準備」

「「「「了解」」」」


 俺が声をかけると、四人は武器を構える。

 スイにいたっては魔術の準備を始めた。

 どうやら、姿を見せたところで先制攻撃を決めるつもりらしい。


「連れてきたぞ!」

「『水球』」


 スイの魔術が発動し、水の玉がリノのほうに飛んでいく。


「え?」


 スイの放った『水球』はいつも以上の大きさで、そのスピードもこれまで以上だった。

 その『水球』はスイとリノの間にあった木々をなぎ倒しながら進んでいく。


「きゃー!」


 誰のものかわからない悲鳴がこだました。

 当然、『水球』はリノのいた場所を通り過ぎ、グレイウルフを二匹とも飲み込んだ。


 あとに残されたのはグレイウルフの魔石二つだけだった。


「「「「……」」」」


 四人は呆然と魔術がもたらした破壊を眺める。

 スイは真っ青な顔で震える。


「ふー。危なかった」

「レイン兄ちゃん! 助かったぜ!」

「!!」


 スイが驚いたように俺のほうを見る。

 そしてぽろぽろと涙をこぼす。


「お、おい! スイ! どうしたんだ?」

「リノに、魔術、当てちゃったかと思った」


 リノがスイに駆け寄って質問すると、スイは涙を流しながらそういった。


 どうやら、自分の魔術でリノを傷つけたと思ったらしい。

 大けがはするかもしれないけどあの程度の魔術じゃ人は消し飛ばない。

 まあ、大けがするかもしれないと思ったから俺がリノの回収に向かったんだが。


 そんなことより、今は気にするべきことがある。


「スイ。今の魔術、今までと同じように放ったのか?」

「(コクリ)昨日も同じように使ったけどあんな風にはならなかった」


 俺はスイのすぐそばに行ってスイに目線を合わせて質問する。

 スイは涙をぬぐいながら真剣な顔で答える。


 どうやら、昨日までは普通だったらしい。


「どういうこと?」

「わからない。情報が少なすぎる」


 アリアが問いかけてくるが、明確な答えを返せなかった。

 スイがいきなり成長したのか、この場所が原因なのか。


(ただ、一番可能性が高そうなのは……)


 俺はスイの腕の中にある魔導書に目をやる。

 魔法は魔術より環境の影響を受けやすいと聞く。

 魔導書がこの場所の濃い魔力濃度の影響を受けて魔術にまで影響を与えたとすれば、今後の行動はもう一度考え直さないといけないかもしれない。


 その日も俺たちはまともな戦闘もせずに魔の森を後にするのだった。

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