特産品を作ろう!④

「村で使うと普通だな」

「そう。今日までは、別に、異常なかった」


 魔の森で二体のグレイウルフを倒した後、俺たちはまっすぐ村に帰ってきた。

 村に帰ってきてからスイに魔術を試してもらったが、スイの『水球』は普通サイズだった。


「ねえ、レイン。スイは大丈夫なの?」

「うーん。たぶん大丈夫としか……」


 『水球』のサイズは込めた魔力量に比例する。

 スイが森の中で撃ったサイズの『水球』は今のスイでは全魔力を使ったとしても放てないはずなのだ。


 にもかかわらず魔術が発動したということは、どこかから魔力を持ってきたのだろう。


(問題はどっから魔力を持ってきたかなんだよな)


 一番怪しいのはあの魔導書だ。

 だが、魔導書は今も手に持っているがスイの魔術は威力が落ちている。


 生命力から持ってきているというのも考えた。

 だが、生命力感知用の魔術を使って確認しても生命力が減っている様子はない。

 ほかにもスイ自身にマイナスの影響がないかできる限りの魔術で調べたが、魔力が普通に『水球』を一発撃った時と同じだけ減っている以外に変化は見られない。


「うーん。なんでだ?」

「レイン」

「? なんだ、スイ」


 俺が首をひねっていると、スイが俺の服を引っ張ってくる。


「たぶん、私の魔術が、周りの魔力を吸って、強くなってる」

「? どういうことだ?」

「魔術を、発動するとき、周りから、ギュって、魔力が集まってくる」

「……まさか」


 魔法は魔術より強力なものが多い。

 その最大の理由として、魔法は自然にあふれている魔力を自分の魔力に追加して使うことができたことがあげられる。

 魔術が発展していく過程でその特性が失われてしまったらしい。


 その例として、錬成鍋のような魔法の時代からあった魔道具は周囲の魔力を吸って術者の魔力以上の成果を出す。

 スイが魔導書の影響を受けて魔法の特性を魔術に乗せられるようになったのかもしれない。


「どっちにしても、危険には違いないな」

「どうするの?」


 アリアが不安そうに聞いてくる。


「封印する。というか、俺の空間魔術で作った空間の中に保管する。それが一番安全だと思う」


 魔導書がスイに影響を与えていることは間違いない。

 今はプラスの影響しか見つかっていないが、他にどんな影響を与えるかわかったものじゃない。


 スイの手元にはおいておかないほうがいいだろう。


「どう、するの? レインは、この魔導書に触れられ、ないよね?」

「それなら問題ないよ。それ用の魔道具があるから」


 俺は『収納』の中から包帯型の魔道具を取り出す。

 この魔道具は魔導書を封印するための魔道具で、これで包めば魔導書の力は抑え込むことができる。


「どうしてそんなものもってるのよ?」

「俺の持ってる魔導書を封印してたものなんだよ」

「えぇ!? レインの魔導書は大丈夫なの」

「もう魔導書が魔道具の魔力を上回っちゃったから俺の魔導書には効果がないんだよ。これの代わりもそのうち探さないといけないと思ってる」

「そのうちって……」


 あきれ顔のアリアをしり目に、俺は手早く魔導書を包む。

 魔道具で包むと魔導書は俺でも問題なく触れるようになる。


 俺は手早く自分の『収納』の中にスイの魔導書をしまった。


「よし問題ないな」

「これで大丈夫なのね」

「当分はって感じかな。魔導書自体が封印の魔道具を突破すれば魔導書はスイの元に戻ることになると思う」

「え? そうなの!?」

「まあ、そうなるのは何年か先だろうけど、それまでにもっと強力な封印の魔道具を探さないと」

「それって鼬ごっこじゃない。何かほかに手はないの?」


 確かに、何の解決にもなっていない。

 魔導書が封印を破って、さらに強力な封印をして、さらにそれをまた魔導書が破いてと続けていけばいつかは魔道具が見つからなくなる。


「あとはあの魔導書がだれの魔導書なのか調べることだな」

「誰の、魔導書か、調べる?」

「そう。魔導書っていうのは魔法について書かれているわけなんだけど、その魔導書の魔法を使っていた魔女や魔法使いがいるはずなんだ。その魔法使いの名のもとに正式に魔導書と契約を交わせば魔導書を意のままに操れるようになるらしい」


 魔導書は魔法の領分に存在する。

 魔法は魔術と違って契約や儀式が大きな意味を持つ。


 スイは魔導書の所有者に選ばれたとはいえ、契約や儀式をちゃんとしていない、いわば仮契約の状態なのだ。

 だから、魔導書の力のオンオフもできないし、そもそも魔導書がどういう力を持っているかもわからない。


 これをしっかりと本契約に持っていけば魔導書はスイの思いのままに動かせるようになるから、そうなれば危険性はほぼゼロになるのだ。


「あの遺跡にはそれがわかるようなものは置いてなかったんだよな。書籍も魔法について書かれているものはなかったし」

「なあ、レイン兄ちゃん」


 俺たちが魔導書の話をしていると、恐る恐るといった感じにリノが話しかけてくる。


「ん? リノ、どうかしたか?」

「……」


 俺はリノにできるだけ優しく話しかけたが、リノは一度何かを言おうとした後、押し黙って顔を伏せてしまう。

 それでも俺はリノの発言を待った。


 アリアたちも黙ってリノのセリフを待ち、少しの間静寂が続いた。


「……あの時は大変なことになったから言わなかったんだけど、あの遺跡の奥の部屋、まだ先に続いてたんだ」


 リノは俺たちが予想していなかったことを言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る