勉強しよう!①

「……ねぇ、ミーリア」

「なんですか? キーリ」


 私がミーリアに声をかけるとミーリアは本から顔を上げて私のほうを見る。

 私も錬成鍋で使う木材の加工の手を止める。


「レインの呪いのこと、知ってた?」

「……今日、初めて聞きました」


 夕食が終わって、いつものようにアリアとリノは限界まで魔力を使って眠りについた。


 いつもと違うのはスイが夕食を食べずに眠ったままなことと、レインが今日は疲れたからといってもう眠ってしまっていることだ。

 だから、今この場所には私とミーリアの二人しかいない。


 レインがいないため、今日はランプを使って明かりを取っている。

 キーリもミーリアもレインのように明かりを長い間つけっぱなしにするということがまだできないのだ。


 スイはなんでも初めて魔法を使ったらしく、その反動で眠っているからそのうち起きてくるだろうとレインは言っていた。

 魔力を使い切れば自分たちも同じような状況になるので、スイのことはあまり心配していない。


 心配なのはレインのことだ。


「……私たちに、何かできることはないかな?」

「……わかりません」


 残念そうにミーリアはそういう。

 彼女にとっても悔しいのだろう。


 だが、魔術に対しては自分たちの師匠に当たるレインにどうしようもないことが自分たちに何かできるとは思えない。


「あれ? ミーリア、その本……」

「これですか? 以前、レインに貸してもらった古代魔術師文明の本とその翻訳本です」


 ミーリアの前には見覚えのある本が広げられていた。

 それは、最初にレインに貸してもらった古代魔術師文明の本とその翻訳本だった。


 結局古代魔術師文明の言葉は理解できず、翻訳本のほうは一通り読み終わったのでミーリアも最近は趣味の本なんかを読んでいたはずだ。


「恥ずかしいですが、少しでもヒントが探せないかと思って」

「ミーリア……」


 ミーリアはすでに行動に移していた。


「レインは私たちの大切な仲間ですから。やはり、あんなことを聞けば何かしてあげたいと思います」

「そうよね」


 私は何かをすることを半分あきらめていた。

 だって、私程度の力がレインの役に立てるとは思えなかったから。


「アリアももう動いていますよ」

「アリアが?」

「えぇ。さっき料理しているときに少し話したんです。何かできないかって」


 全然気づかなかった。

 今日もいつも通りの行動をしていると思ってた。


「アリアはどうするつもりだって?」

「魔の森の探索にもっと力を入れたい。そういってました」

「探索に?」

「えぇ。今日みたいに魔の森の遺跡を見つけられればそこから呪いを解く方法が見つかるかもしれないと……」


 確かに、今日の遺跡には直接呪いを解くようなヒントはなかったが、今後行く遺跡の中で見つけられる可能性は十分にある。


「私が古代魔術師文明の言葉にもう一度挑戦しようと思ったのもそれがきっかけなんです。遺跡の中の言葉はすべて古代魔術師文明の言葉なので、それがわかる者が一人でも増えれば見つけられる可能性が増えるかな。と……」


 確かに、今日の遺跡にも模様のように書かれていたものの中にいくつか字が隠れていた。

 あの魔導書が置かれていた棚にも『魔法使いたちの英知に……』という一文が彫られていたらしい。


 それが読めていればあれが危険な魔導書だということは類推できたかもしれない。


 私はミーリアの隣に移動して座る。


「キーリ?」

「私も古代魔術師文明の言葉、再挑戦する。二人でやったほうが効率もいいと思うの」

「そうですね。一緒に挑戦しましょう」


 私たちは二人で古代魔術師文明の言葉の解読を再開した。


 ***


「ダメ。全然わからない」

「前はレインに手伝ってもらってやっと少し解読できたので二人だと難しいとは思っていましたが、ここまで進まないとは……」


 どれくらい時間がたったかはわからない。

 だが、今日の成果はゼロだ。


 今までのおさらいを少ししただけでぜんぜん進まない。


「二人とも。何、してるの?」

「あ。スイ」


 私たちが頭をひねっていると食堂の入り口から声がかけられる。

 声をかけてきたのはスイだ。


 一瞬朝になったのかと思ったが、外はまだ暗い。


「私たちはいつも通り勉強してるんだけど、スイこそどうしたの?」

「私は、おなか、すいた」

「あぁ。夕食を食べずに寝てしまったからおなかがすいたんですね。ちょっと待ってください。夕飯の残りを少し温めます」


 どうやら、スイはおなかがすいて起きてしまったらしい。


「手伝い、いる?」

「スイはまだ寝ぼけているようですから座って待っていてください」

「ん」


 眠そうに眼をこすりながらスイは私の隣に座る。


「これ、何?」

「これは古代魔術師文明の本よ。これだけレインが訳された本を持っていたからこれを使って古代魔術師文明の言葉を学んでいるところなの」

「……」

「スイ?」


 私がそういうと、スイは穴が開きそうなほど二つの本を見る。


 そのままスイは動かなくなってしまう。


「温めてきましたよ。……あら? スイ。どうしたの?」

「わからない。今、古代魔術師文明の言葉を勉強してるって言ったら動かなくなっちゃった」

「あらあら。……スイ。ご飯が冷めちゃうから先に食べてくれる?」

「わかった」


 ミーリアがスイの目の前にスープとパンの簡単な夕食を並べると、スイはゆっくりと食事を摂り出した。

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