森の奥に行ってみよう!①

「商人さん帰ったの?」

「えぇ。おかげでいろいろと手に入ったわ」


 アリアがほくほく顔で商人から買ったものを並べている。

 キーリやミーリアはもちろんスイやリノもその商品を興味津々の顔で眺めている。


 どこの世界でも女の子は買い物が好きらしい。


「そういえば、錬成鍋は手に入りそうなの?」

「えぇ。問題ないわ。結構自信がありそうな感じだったし、早ければ春までには手に入るんじゃないかしら? それまでにちゃんと『土液』?だったかしらを作っておかないといけないわね」

「それはちょうどいいな」

「ちょうどいいの?」

「あぁ。だって、どうせ春まではキーリは農具づくりに追われることになるだろ? 同じものを作り続けるなら同じ錬成鍋で作るほうがいい」

「へー。そんなものなの」


 俺たちの会話にキーリは嫌そうな顔をしていたが、農具づくりはキーリにやってもらいたい。

 春までに予備も含めて鍬が100本くらいあればちょうどいいだろうが、うまくいくようになっても一日二本がやっとだろう。


 何気に錬成鍋で錬成するのは時間がかかるのだ。

 それ用に素材を加工したりしないといけないからな。


 正直、木のクワを作るのに木を十センチ四方に切る必要がなぜあるのかはわからないが。


「私たちはいろいろとジーゲさんに注文したけど、レインはお願いしなくてよかったの?」

「あー。そろそろ新しい古代魔導士文明の本が欲しいんだが、見ず知らずの商人に頼むのはなー」


 古代魔術師文明の本はピンキリだ。

 正直、魔術に全く関係のない本やおそらくゴシップ誌だろうと思われる本も当然存在する。

 そんな本も金貨数枚の値段で取引されているのだ。


 まあ、インテリアの一種みたいなもんだからな。

 読めなければ中身がなんだって一緒だ。


「余裕ができたら王都のほうに行ってみて自力で探すよ。夏ごろになればそれくらいの余裕もできるだろ」

「……そう。レインがそれでいいなら」


 神聖ユーフォレシローリウム人民聖王国の王都は面白そうな店はあったんだが見に行く余裕はなかったからな。

 この国の王都にもそれなりのものはあるだろ。


「じゃあ、今日は魔の森の木の収集も十分な量になってるし、三度目の探索はやめとくか? 今日買った商品とか見たいだろ?」

「いいえ! 行くわ。せっかく調子が乗ってきたんだから、行かない手はないわよ! ねぇみんな!」

「「「「うん!」」」」


 アリアのセリフに他のみんなもうなずく。

 どうやら気持ちは変わらないらしい。


「わかった。じゃあ、今日はいつもより深いところに行ってみるか。そろそろ複数のグレイウルフが群れてるエリアに行っても良いかと思ってたんだ」

「え?」


 俺がそう言うと、全員が動きを止める。

 グレイウルフは複数体になると一気に危険度が上がる。

 もともと狼っていうのは群れで狩をする動物だからな。


 もうグレイウルフ一匹との戦闘は楽々こなせるようになってきたが、まだ複数のグレイウルフとの戦闘は不安なんだろう。


 この危機感はいい。

 一番危ないのは慣れてきた頃だと言われている。

 今これだけの危機感が持てているなら変わったことがないと大きな怪我はしないだろう。


「まあ、大怪我をしそうになれば俺がフォローに入るから大丈夫だよ。今の五人なら複数体のグレイウルフから逃げることもできると思うし」

「……それはそうかもしれないけど」

「それに、今日は戦闘はせずに少し散策するだけにするつもりだから」

「……わかったわ」


 アリアは渋々といった様子でうなずく。

 俺が戦闘をするつもりがないと言うと、あからさまにほっとした様子を見せる。


「よし。そうと決まれば出発しよう。今日はいつもより遅い時間になっちゃってるから早く出ないと帰りが夕飯に間に合わなくなる」

「なに! それはまずいぞ! アリア! 早く出よう!!」

「はいはい」


 俺が夕飯に間に合わないと言った瞬間、リノが焦り出す。

 リノは食いしん坊だからな。


 リノに引っ張られるようにしてアリアが家から出て行く。


 ある程度弛緩した雰囲気になったので安心して俺は彼女たちの後を追った。


***


「ここらへんから魔力濃度が濃くなってる。みんな準備は大丈夫か?」

「えぇ!」「おう」「(コクリ)」「はい」「大丈夫です」


 未踏エリアを前に俺は一度全員を集めていた。

 ここでも渋る人がいれば今日は諦めようと思っていた。

 そこまで焦って奥に行くこともないからな。


 だが、みんなここまで来るまでの間に決意を固めてきたようだ。


「じゃあ行くぞ」


 五人がうなずくのを確認して、俺は一歩を踏み出した。

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